ばいばーい!

仕事が終わるのが押して、次の予定に急いでいた。

めっちゃ急いでいた。

次の予定に間に合わないかもしれない。

 

乗る予定だったバスに3本遅れて乗ったバスだった。

 

お母さんと4歳と6歳くらいの男の子2人、座席に座っていた。

4歳の子はお母さんにもたれかかって、安心しきった表情だ。

6歳の子は弟たちのひとつ後ろの座席に一人座り、窓の外を見ている。

 

バスは走る。

急いでいる気持ちに関係なくバスのスピードで進んでいる。

間に合うかどうかより、落ち着こう。

私も窓の外を見る。

 

降りるバスが同じらしい。

私が席を立つより早く親子が席を立って降車口に向かう。

 

お兄ちゃんが座っていた座席に帽子が二つ置かれていた。

それを掴んで降車口に向かい、運賃を投入したお兄ちゃんの後ろ姿に声をかけた。

「帽子わすれてるよ」

振り返ったお兄ちゃんはちょっとびっくりした顔で帽子を見て、私を見た。

帽子を受け取り、お母さんたちについていく。

よかった。

バスを降りた私に、お兄ちゃんが振り返った。

 

「ばいばーい!」

 

帽子を掴んだ手をブンブン振って笑っていた。

 

私も笑顔で手を振り返した。

お兄ちゃんは顔を前に向き、お母さんと弟に一緒にターミナルを歩いて行く。

 

私はエレベーターで降りて地下鉄に向かう。

地下鉄に乗って次の予定を確認する。

頭のなかでお兄ちゃんがかけた明るい声が響く。

 

地下鉄を降りて待ち合わせ場所に向かう。

予定時間にちょうど間に合う。

 

忘れ物を届ける親切より、もっと大きな親切をもらった。

お兄ちゃんの明るい声がいまも私の中で響く。