S・O・S
しんがき佐世最近うれしかったこと。
とあるグループセッションで、参加者の方々がまとう空気が柔らかくなったこと。
柔かい、という表現はニュアンスがすこし違うかもしれない。
なんというか、「心が開き始めた」「つぼみが開き始めた」という感じ。
初対面からずいぶん経っても、場に慣れても、「よそゆきの自分」で誰かと一緒に過ごすとき、多少の緊張感はあるものだ。
会社、サークル、コミュニティ。
自分以外の他者がいる空間。
くつろげる部屋着で過ごす家のような「対内」とは違う、「対外」の場所。
そういう場で、自分の内側を他者に語ること。
当たり障りのない言葉ではなく、本音を話すこと。
節度をもちつつ、洗練されていない内側の生(なま)の自分を表にすること。
人にもよるけれど、一般的に、勇気がいること。
「心を開く」のは、花が開くのに似ている。
つぼみだらけの緑の光景に、花がひとつ咲く。
その動きにうながされるように、近くのつぼみがゆっくり開いていく。
ひとりの花が開くと、周りも、自分の内側をおそるおそる開いていく。
固かったつぼみが少しずつやわらかくなる。
「私も開いていいんだ」と、場の空気が温まる。
時間をかけて、心理的安全性をコツコツ育ててきた。
その結果、すこしずつだけれど、「正しい自分でなければならない」「ちゃんとしないとダメ」といった肩の力が徐々に抜け、心を開く参加者が増えてきた。
「心を開く」
この言葉が、どれほどありきたりな表現だとしても、実際はそれほど簡単ではない。
わたし自身がそうだったし、対人援助の仕事を始めて10年、いろんなひとと向き合ううちに強く実感してきた。
ひとは自分に関心をもって欲しい生き物で、自分に無関心と知ると悲しさや寂しさ（一次感情として、怒る場合もある）を抱く。
自分のことを理解して欲しいと願う一方で、同時に防衛心もはたらき、質問されるのが怖いひともいる。
「自分の考えが明るみになる」ことを過剰に恐れるひともいる。
心の中は見えないので、中でうごめくさまざまな感情や思いは他者には見えない。
なんなら自分自身も見ようとしない。
代わりに「私ってこういうタイプなので笑」と浅い自己理解にとどまって自嘲するひとは、自分の内側で起こる機微や変化に気づけない。
書いていて思った、過去の自分がそうだった。
それくらい心は複雑だ。
なので、その複雑な心を「開く」のも、簡単なことじゃない。
とても不思議なのだけど、誰かが「心を開く」とき、見えないはずの心なのに、「開いた」のがわかる。
グループセッションで、ある女性が心を開き始めた。
すると、そのひとを見る周りの空気が変わっていた。
心を開いて話す彼女の話に、周りのひとがまるで光を見るように、注目していた。
「心を開いて話す」なんてさらっというけど簡単じゃない。
だけど、難しくはない。
一年前、そのひとの口癖は「でも、難しいです」だった。
いつのまにか言う回数が減っていた。
「難しい」が口をついて出るなら、 それは自らにかける呪文だ。
あるいは誰かにかけられた呪いだ。
私たちはだれ一人、口癖を持たず生まれた。
S O S（そう おもえば そうなる）
同じスペルに新しい意味を、わたしたちは上書きできる。
「簡単じゃないけど、難しくはない」
そうおもえば、そうなる。
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