長いトンネルを抜けたあとに

 

1ヶ月滞在したバリのゲストハウスのマネージャー、サンディさん。
朝の儀式の準備中。

 

 

娘が2人、息子が1人。
末っ子は15歳で、高校生の女の子。


ウブドからバイクで40分離れた村で暮らすサンディさんは、週に6日、シフト制でゲストハウスで働く。
雨季のスコールが強い時間帯の出勤は、雨ガッパを着てバイクを走らせる。

 

3月中旬のスコールで体を冷やして風邪を引き、しばらく調子悪そうだったが、午後に早退した日が1日あった以外休まず働いた。
彼の体調が回復してきた頃が、わたしの帰国数日前だった。

 

帰国が近づいて、自分の荷物を整理しながら、日本から持ってきた水着をサンディさんに渡した。


バリ島の真ん中(海がない)ウブドで水着を着たのは一度、滝に打たれて激しめの沐浴した時だけ。
もう着る予定はない。


なので、もし娘さんのうちどちらかが着るなら、お下がりですがどうぞ、と渡した。

おさがりの風習は日本以外にもありそうだが、念のため、事前に調べておいた。
ChatGPTさんに相談。

 

「インドネシア、バリでは、他人からのおさがり風習はアリかナシか」

「ある程度親しくなった関係なら、アリですよ。
 そうでなければ状況によっては ” 施し ”と取られる可能性もあるのでご注意を。
 おさがり品の状態がある程度、良ければ全然アリですし、喜んでくれる可能性は高いです。
 でも、もし気に入らなかったら無理しないでね、と一言添えるとなお親切ですね!」

 

と、素晴らしくコミュ力の高い回答をもらっていたので、サンディさんにそれを伝えて託していたのだった。
ついでに、日本から持ってきていたかわいいシール(日本のうちわ柄)や便箋も託した。
シールを見るなりサンディさんは、うちの末娘が好きだよ、と即答。
日本もバリもかわいいシールは10代の心を掴むのね。

 

日本に帰国する前日の夜、仕事終わりのサンディさんを誘って飲んだ。


最初からそのつもりで買って冷蔵庫で冷やしておいたビンタンビールを差し入れして、彼の仕事場でもある受付エリア(壁なしオープンエア型)で一緒に飲む。

 

サンディさんに、お下がりの反応を聞いてみた。


会ったことない日本人女性(しかもかなり年上)からもらうお下がり水着ってどうなの?
と、内心気になっていたのだ。

「もしいまいちな感じだったら、無理して着なくていいと娘さんに伝えてくださいね」

と念押しすると、サンディさんが「喜んでたよ」と答えた。


わたし自身は大叔父や叔母やいとこからのおさがりを着るけど、海外の人に直接おさがりをあげたことはない。
なので、サンディさんの笑顔にほっとした。

 

思いついたようにサンディさんがスマホを手にして、まもなく通話が始まった。
スマホ画面の向こうは高校生の末っ子。
お互いに顔を見ながら水着のお礼を言われた。
娘さんかわいいな。笑顔がすごい。

 

観光産業が7、8割を占めるバリ島で、コロナがもたらした負の影響はすごかったはずだ。
サンディさんも、彼の家族も観光業に携わっている。
痛みは深かっただろう。


バリ在住の他の人から少し話をきいただけでも、先の見えない分厚く長いトンネルだった。


ひとたびトンネルを抜けたなら、期間として振り返ることができる。
「4年間」「3年半」とカウントもできる。
だけど、その最中にいるあいだは終わりが見えない。


終わりが見えない暗い時間に、いくつもの家族や命がバラバラになったのは、日本もバリも、きっと同じだろう。
コロナに限らない。
人生の課題や危機、重圧に塞がれたような期間は、抜けるまでとほうもなく長く感じる。
時間が引き延ばされ、眠っても気を紛らわしても時計の針は進まない。
振り返る過去も、先行きの未来も、まっくらなトンネル。

 

彼女は、スマホを持った手を部屋中にぐるっと回し、カップ麺を食べている兄を映した。
お兄ちゃん25歳、食べ盛り。
夕食が足りなかったのか知らないが、手にしたそれは夕食後の補食じゃなかろうか。
末っ子のいたずらに「やめろよおー」(的な
バリ語で)笑って顔を隠して笑うお兄ちゃん。

 

スマホをまたぐるっと回すと、サンディさんの奥さんがリラックスした表情で「ハロー」と手を振る。
カメラを向けられてあわてて座り直したりしない、貫禄の涅槃像ポーズ。
娘さんに似ていて(逆か)、笑顔がすてきだ。
わたしも手を振りかえし挨拶して笑う。
サンディさんも笑う。

 

これはわたしの想像だけれど、単なる家族仲の良い笑顔ではないように見えた。
いろいろを乗り越えて、これからも乗り越えていくための笑顔に見えた。


笑うから乗り越えられる。
笑えなくても、そばにいる。
乗り越えたあと、再び一緒に笑うために。

 

サンディさんのWhatsApp(ワッツアップ:LINEみたいなアプリ)に、娘さんから通知。
水着を着た本人の動画が届いた。
モデルさんかい。

 

 

水着を着て、音楽に合わせて踊る姿がサマになっている。
喜んでいる様子がめっちゃ伝わる。
勇気出してあげてよかった。

 

2年前の地球一周の船旅で、ギリシャの古着屋さんで買った間に合わせの水着だったが、彼女にとても似合っていた。
どうやら水着としてではなく、日常使いのワンピースとして活躍しているらしい。
生地が厚くしっかりしたつくりだからね。

ただの「いち旅人」の日本人として、ささやかに関われてよかった。

わたしは、来週から高校生に国語を教えることになった。

 

これはもう「縁」としかいいようがない流れで、80名以上の高校生と毎週向き合う時間を得た。
ワンピースの水着を着てくるくる踊っていた女の子と、同じ世代の子どもたちだ。

 

ただの「いち先生」として、何ができるだろう。
他者から学ぶ大切な義務教育期間の長きにわたって、コロナ禍のトンネルだった学生たちに。

 

コミュニケーション、接触、対面のやりとり、深い関わり。
人間が根っこから求める大切なそれらをいやおうなく外側から絶たれ、長い時間をくぐりぬけた子たちに、何を伝えられるだろう。

わからない。
動きながら、一緒に考えていこう。

 

先生は偉くもなんともない。
"先に生まれた人" なだけだ。


そして先に生まれたぶん、経験した数々を、サンプルとして提供できる。

 

あー失敗ならあるあるあるあるあるある。
おかわり自由なくらいある。
だから、伝えられることもあるある。
伝えたい気持ちがもつれて転んで失敗しそうなほどある。

 

きっと華やかな成功より、失敗のほうが役に立つだろう。
「大丈夫」「大丈夫だよ」「味方だよ」
自分が失敗した数の分だけ、彼らに言えるチャンスが増える。

 

わたしはあなたの味方だし、あなたもあなたの味方だ。

 

それをあの手この手で伝えよう。

 

 

  

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