サーカス

 

週末に、木下サーカスに行ってきた。

船で福岡へやってきて前泊した家族と、当日博多駅で待ち合わせした親戚と合わせて、３家族の大所帯だ。

 

家族それぞれ大変なことがあって、いろいろだ。

体のこと、家族のこと、過去のこと、未来のこと。

気がかりなこと、宙ぶらりんになっていること。

正解はないと知っていても、正解を探したくなる心境。

 

過去の何かに気を取られ、未来の何かに思いを奪われている。

そういうときは、「イマココ」にいない。

 

サーカスは約100分間の、ショーで、本番で、イマココの縮図だ。

期間中はほぼ毎日、一日2回の表舞台がある。

空中ブランコ、大車輪、アクロバティック、大技、動物演技。

来てくれた人の「たった1回」のために、練習を積む。

 

表舞台のために、楽屋裏でどれほどの時間をつかっているのだろうか。

集中と努力と練習と鍛錬と節制にエネルギーを注ぐ内情を知らなくても、難易度のおそろしく高いパフォーマンスと、身体の極限の動きのすさまじさが、それらを語る。

人間はここまでできるのか、を目の当たりにする。

 

ライブのサーカスショーは、動画編集でなかったことにはできない。

AIやVRで「それっぽく」も作れない。

 言い訳をそぎ落とした時間がないと、できない技術ばかりだ。

 

目隠しした状態で、空中ブランコのバーからバーへと飛び移る。

落下したら大怪我どころではすまない十数メートルの回転する輪の上で、逆立ちして歩く。

揺れる細い竹の上で身をひるがえしてとび跳ね、美しく着地する。

 

そこに過去の後悔や、未来の憂いはない。

彼らは、「イマココ」にしかいない。

 

わたしたち3家族も、満席の他の観客も、きっと「いろいろある」なか、それはそれとして、イマココを楽しむために来た。

電車に乗って、あるいは車で、徒歩で、サーカスのテントに集まった。

それぞれの「いろいろ」をあるまま、イマココを味わいに来たのかもしれない。

 

息を飲んで見守り、大技が決まった彼らの姿に手をたたくわたしたちも、間違いなく、今ここにいる。

 

 

 

 

 

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