思い出せなくても残るもの

9月から新しいクラスを2つ教えることになった。
全部あわせて130名以上、うち初めましての生徒が60名以上。
こんなにいっぺんに十代に会う日常はこれまでなかった。

「えー先生、『ラーメン赤猫』知ってるんですか」

お互いに観ているアニメやマンガの話でつながれるのが地味に嬉しい。
アイドルはほぼわからない。

ジャケット着て(いつも着ない)、ちゃんとした姿勢で(中身ぐでたま)、前向きな笑顔で(実は内向的)話しているとふと、「ごっこ」をしている気がする。先生ごっこ。
仕事をてんてんと変えた先に、教職にも就くとは思わなかった。

 

わたしは、よく壁にぶつかる。
なんなら何もない場所に壁をおったててぶつかり泣く。なにやってる。
頻繁にくじけてしょっちゅう凹み、復活に時間がかかる。
失敗エピソードに事欠かない人間が、彼らより長く生きているだけで教えられるものはあるのだろうか。
あるとしたら、なんだろうか。
今しかない90分間でただ一つ伝えるなら、それは何だろう。

 

15回の半期授業もあるし、30回の通年授業もある。
授業の目的に応じて、飽きないようにやることも変える。
けれど結局はこれ、というメッセージがある。

 

「自分を自分の味方にしてください」


わたしが何度も壊れたレコードのように伝えることは、「自分を知ること」の大切さだ。
自分を知り、自分自身のいちばんの理解者・味方であってほしい。

整った字の書き方。伝わる文章表現。円滑なコミュニケーションスキル。
クラスや学校によって講義内容は違っても、伝えたいことは共通する。

 

手書き文字に集中し、自己肯定感を上げる言葉を発見し、自己理解する。
文章表現法を身につけ、論理的な他者理解をとおして、自己理解する。
コミュニケーション技術を学びながら、自己「誤解」を解き、自己理解する。

 

 

きょう教えたことも、身につけたことも、明日には半分以上忘れている。


人は忘れる生き物なので、そういうつもりで授業している。
そうなると毎回、伝えたい内容を繰り返すことになる。
「先週も伝えましたが・・・」と前置きして、伝える。
あ、忘れる生き物なら、その前置きもいらないか。
自分の口ぐせや思考ぐせに気づいて、少しずつ改善する。
うまくいかないことも多い。
タオルハンカチは手放せない。授業中ずっと汗をかいている。

 

「自分を知ること」自己理解は、一生ものです。
ずっと役に立ちます。
だから。

誰かにつられて、自分へのダメ出しに慣れないでほしい。
ウケるからと、自虐ワードのボキャブラリーを増やしすぎないでほしい。
乗り越えられなかった挫折の記憶を理由に、自分を敵視しないでほしい。
親や先生、大きな声や権力を持つ者があなたを否定しても、あなたは肯定してほしい。
あなたの人生でいちばん力を持つ者は、あなたです。

 

それはぜんぶ、過去のわたしがくぐってきた時間だ。

 

人は、学んだことを忘れても、「残るもの」があるという。
それは、
生身の感情だそうだ。
段取り下手でも情熱には自信がある。
わたしが汗かきながら伝える姿「先生必死だな」がいつか、その人を支えるといい。

自分を知ることの大切さを、「あ、そういうことか」とつながる(かもしれない)いつかのために、今日も内心バクバクしながら人前に立ちます。
教えるほど、伝えるほど、わたしがそれを教わりたいと思っています。




 

 

 

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