夜の自転車
「今日はどこ行く?」
夜、親子で散歩サイクリングを始めて3週間が経った。
東西南北、気になる道をあてもなく自転車を走らせる。
信号で停まると風がやみ、汗がどっと吹き出す。
北に向かえば海に出て、南に走れば山が近づく。
信号機や車のライトが光る。
水筒の水を代わるがわる飲み、気がすんだら帰宅してシャワーを浴びる。
子どもは学校入学時からコロナの行動制限下で非接触が普通、ほとんどの行事を体験しなかった。
コロナの制限が解けても友達の家を行き来する習慣がないまま、「外で出かけないのが普通」の子どもが少し気になっていた。
とはいえ、親のわたしがそもそも外向的ではない。
社交的でもないし「ママ友」もいない。
河原でバーベキューに胸おどるタイプでもない。
スポーツもしない。
アウトドア派でもない。
子どものために!と、気が進まないのに出かけるのも不自然だなぁ、と思っていた。
が。
夜の空気を一緒に吸いたいな、と軽い気持ちで夜さんぽに誘って以来ほぼ、毎日外に出るようになった。
☆
わたしは、大学生になるまで夜に出かける経験がなかった。
夜に出かけたいと思わなかったのは、家の周辺になにもなかったからだ。
コンビニも、公園も、映画館もない島の端っこで育った。
スーパーや喫茶店、本屋や図書館は、車で数十分走った場所にあった。
コンクリートで固めた湾の内側、潮の匂いがする細道の街灯の間隔は広く、海も陸もどこも真っ黒だった。
空と月と星だけがうす明るかった。
長い夜、本を読むかチラシの裏に絵を描くか。
ぼーっと想像する時間の多い、退屈な夜が普通だった。
夜のテレビも自由に観れず、お笑い系やバラエティ番組を観ると「馬鹿になる」と言われた。
いろんなことを言われるまま「そういうもの」と疑わずに育った。
家はどこか居心地がよくなかったけれど、「そういうもの」と思っていた。
他の選択肢を知らないおかげで、葛藤はない。
苛立ちもない。
その代わり、どこに居てもくつろげない自分にも気づかなかった。
家を出て、一人暮らしを始めると近所にコンビニがあるのに驚いた。
何を買えばいいかわからず、店内をうろつき迷ってアイスを買った。
それから、好きなだけ外にいれる自由に浮かれた。
都会では夜も多くの人が、昼間みたいに堂々と出歩いていて驚いた。
真似して夜に出かけたり、徹夜してみたり、仕事帰りに遠回りして帰ったりした。
近所のローソンでパック寿司を買って帰り一人で食べると、すごく大人になったと思った。
出かけても出かけなくてもわたしの自由だとやっとわかると、部屋で過ごす時間に帰ってきた。
☆
小学生にとって、夜の外出は特別な時間だろう。
ヘルメットをかぶった子どもが、周りの車や通行者に注意しながら、青い自転車を走らせている。
目的地はないのに、たどり着きそうな目を光らせてペダルを漕いでいる。
北、夜の海に話し足りない若者たちや観光客が集まりやすいこと。
南、夜の山は真っ暗で、空のほうが明るいこと。
東、夜の神社はなんだか怖いこと。
西、夜の公園は若い大人がブランコで語らっていること。
説明してもわからない、体験しないとわからない夜を一緒に走っている。
☆
土曜の朝に、子供の観たい映画を観に映画館へ出かけた。
往復一時間、かんかん照りを自転車を走らせて帰宅。
汗だくになって、髪もびっしょりで、まあまあな運動量だよね。
「今日は夜さんぽしない?」
「する」
夜は別腹なのね。
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