「わかりやすい」はいいこと?

映画『インサイド・ヘッド2』を観てきた。

これから観る人もいるだろうから、ネタバレなしで少しだけ。

 

前作『インサイド・ヘッド』で、生まれて間もない赤ちゃんの脳内は「喜び」感情スイッチのみのシンプルなつくりだった。

成長するにつれて喜び以外の感情「悲しみ」「怒り」「ムカムカ」「ビビリ」と5つに増えたのが前作だ。

 

 

テレビ番組や雑誌、YouTube、インスタ、視聴者の目を引く大きな文字で目立つコピーでよくあるのが、「あなたはどっち?」というもの。

ごはん派かパン派か。家飲みか外飲みか。持ち家か賃貸か。優しいか冷たいか。AかBか、白か黒か。

「選ぶとしたらどちら?」と、いっけん選択肢を与えられているようで、不自由な違和感をずっと感じていた。

どちらを選んでも、自分の考えを表してくれないズレた居心地悪さ。

 

どちらでもないときもあるし、気分によっても違うし、状況によっても変わるし、あとで覆ることもあるのに、「まあまあそう言わずに。選ぶとしたらどっち?」と、二項対立型があちこちのシーンで示されるのは、わかりやすいからだ。

わかりやすいと、理解者が増えやすい。あなたもパン派、同じですね!と仲間を得やすい。

自分も相手も脳のリソースを割かなくていいので、「わかりやすい」のは一般にいいこととされる。

メディアで多く使われる表現は、多くの人がそれを求めているということ。

だけど、わかりやすさを求めて曖昧さを削ぎ落としすぎると、心の解像度が粗くなってしまう。

 

 

『インサイド・ヘッド2』は、思春期を迎える主人公に4つの感情が新たに加わる。

「嫌い」が嫌いを意味せず、「別に」が無関心を意味しない。

細かな機微にほんろうされながら成長していく主人公の感情は他人事とは思えない。

白と黒のあいだにある、無限のグレーのグラデーションが丁寧に描かれた映画だった。

脳内がせわしなくなる流れはきっと、子どもより大人の方が強く共感すると思う。

 

 

「我慢すること」はいいことか、悪いことか。

我慢というテーマで、コピーライターの糸井重里さんが書いていた。

 

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ぼくは、「我慢」はからだに悪いよぐらいの気持ちでいた。
いつごろからか、「我慢」を強いられるのが嫌で、
どれだけ「我慢」せずに生きていけるかを大事にしてきた。
「のびのびと」することで、その人は活きると思ったし、
なんだったら「我慢」をばかにしてきたかもしれない。
それがぼくの心のA面になっていたような気がする。
しかし、実を言えば、同じぼくの心のなかに、
「我慢」をかっこいいと思い、
「我慢」できる人を尊敬するようなB面もあった。
ドラマのなかの「我慢」できる主人公が好きだった。
スポーツでも「我慢」できている選手を応援していた。

一方では、「我慢」なんかを乗り越えようとして、
もう一方では、「我慢」への敬意がある。
その両面があるのが、ぼくの心なのだろうと知った。

(糸井重里「今日のダーリン」)

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我慢への価値観を「心のA面」「B面」と表現していて面白いな、と思った。

レコードなら裏表。CDならカップリング。

我慢を嫌う側面と憧れる側面が、くっついているのだ。

 

スッキリしたいがゆえに求めがちな「わかりやすさ」も、きっと同じ構造だろう。

「わかりやすい」と「わかりにくい」は、くっついている。

わかりやすくすると、かえって物事の本質が失われることがある。

逆に、わかりにくいまま咀嚼することでむしろ本質に近づけたりする。

 

わたしたちの脳はいつもラクをしたがる。つい、わかりやすさを求めてしまう。

だけど「わかりやすい」はマルで「わかりにくい」はバツ、と雑に分けないでいたいと思う。

どちらにも属しないまま、その間に目をこらし続ける意識が、心の視界をかえってスッキリ、クリアにしてくれる気がする。

 

 

 

 

 

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