【イギリス編】自分との約束を守る

ティルベリー港に着く前、早朝に目が覚めた。

ベッドに横になったまま、ぼんやりしていた。

イタリアは・・・楽しかった。

無理してなくて・・・気楽で・・・
MacBook は1時間で閉じて、仕事をやめて。
買い物して、気の向くままに歩いて。

フランスは・・・楽しかった。

自由で・・・気楽で・・・
MacBook は30分で閉じて、仕事をやめて。
電車に乗って、適当にぶらぶらして。

楽しかったのは嘘じゃない。

私の内側からずっと聞こえるノックの音が、耳ざわりだったことを除いて。

コンコン、コン

コンコン、コン

その小さな音を聞こえないふりして、イタリアを、フランスを、楽しかったと「思おうとしている自分」に、気づいていた。
ベッドで寝返りをくりかえしても、違和感は剥がれず背中にベタベタ。

テレビをつける。
BBCニュースも、船内テレビも、頭にはいらない。
テレビを消す。

日本から持ってきた本を開く。

目についた文章に痛みを感じて、本を閉じ、ベッドに置く。
目をつむる。
まぶたの裏側で、違和感の正体にとっくに気づいている。

旅を楽しむこと。仕事をすること。
地中海を過ぎて1000を超えた、画像や動画ファイル数のこと。
書きかけの原稿のこと。

「もっと楽しんでほしい」

私を心配してくれる人からの、やさしい声。

「もっと自由にしてほしい」

私を応援してくれる人からの、励ましの声。

仕事につぶされて船旅が楽しめないなんて、本末転倒だ。
できないものは、どうしようもない。
何かを選び、何かを捨てる。
わかっている。

だけど、「あの人」と交わした約束を、諦めるタイミングは、今だろうか。



コンコン、

イギリスは2日間の滞在だ。
5月26日の午後に港に着いて、翌27日の夜に出港する。

実質、約1日半で何ができるだろう。
何をしたいだろう。

「もっと楽しんでほしい」

と、読者から届いたメッセージ。

楽しむ、楽しむ、楽しむ、、、
「楽しむ」がゲシュタルト崩壊してきた。
私の楽しみって・・・なんだったっけ。

他の国と同様、イギリスにも、今のところ思い入れがない。
なので「絶対ここに行きたい」「どこそこでなになにをしたい」が、この国にたいしても、ない。

有名な二階建てバスに乗ったら、私は楽しいのかな。
ロンドンブリッジを渡ったら、私は楽しいのかな。
わからなくなってきた。

コンコン、

あとで後悔したくないから、一応、有名スポットには行っておこうっと。

あ、だめ。気持ち悪い。
違和感。
なんだ「一応」って。

前にそれをやって、楽しくなかったじゃないか。

誰かへ「〇〇に行ったよ」と言うために。
誰かに「いいなぁ」と言われるために。
自分の心が行きたがらない観光地に行き、なんとなく元気をなくして帰ってきた。

旅のあと「どこに行ったの?」と訊かれて、「〇〇へ行ったよ」と言う。

「いいなぁ! 楽しかった?」
「うん・・・」

楽しかったか内心、疑わしい自分がいたでしょう。

コンコン、

コンコン、

っだぁ! わかったよ!!!

ベッドから起き上がる。肋骨がギギ。

知ってるよ。
私にとって何が楽しいか。

伝えたいんでしょう。
書きたいんでしょう。

楽しい = ラク とは限らない。

ラクじゃないけど。
しんどいけど楽しいよ。

肚が決まって、ベッドから出る。

時計を見る、朝8時。
リュックに一泊用の荷造りをした。

宿は取っていないけど、ロンドンに泊まろう。
Wi-Fi環境で一晩、できるかぎりのことをやろう。
届けるために。
誰よりも届けたい人がいた。

宿はどうしよう?
金曜日の夜だ。
ホテルはどこも埋まっているかもしれない。
取れるかわからないけど、何もしないで諦めたくない。
高級ホテルか中級ホテルかユースホステルか、どこか。

どこでもいい。
安全で、ネットが使える宿を見つけよう。

ティルベリー駅からロンドンへ、どうやったら行けるだろう?
イギリスの寄港に前向きになれなかったから、情報をなにも集めていない、ゼロ。
これから集めよう。

荷造りをすませて、四方を鉄板で囲まれた窓のない部屋を出た。

宿泊を伴うので、預けていたパスポートを受け取りに行く。

パスポートを手に、ロンドン行きの電車について考えながら7階のデッキに出て風にあたっていたら、一人でデッキを歩いていたアルンとばったり会った。
彼は船内でたいてい誰ともつるまず、14階後方デッキで一人で静かに過ごしている。

お互い一人で、航跡の見える後方デッキで過ごすので、たまに目が合うと短い会話をする。
私が14階後方デッキの丸いソファでパソコンを開いたり、本を読んだり、ボケーっとしているときに、何度か話したことがある推定70代の台湾人男性だ。
自転車が好きで、寄港地では持参した折り畳み自転車で自由に過ごしているそうだ。
今は台湾で暮らしているが、かつてカナダで仕事をしていたので英語が話せる。

このごろ私が後方デッキに行かなかったので、顔を見るのは久しぶりだった。

アルンは自転車を電車で運び、ロンドンを自転車でめぐると言う。
台湾人のグループ数人で一緒にロンドンへ向かうらしい。

私が

「ロンドンに泊まるんですか?」

と尋ねると、アルンが答えた。

「まだ決めていません。なりゆきで決めます。あなたは?」

「さっき、宿を探そうと決めました」

「そうなんですね」

一緒に行く台湾人グループはロンドンに宿を予約しているが、アルンだけ、宿を取っていないらしい。

私がロンドン行きの駅の名前を尋ねようとするより前に、アルンが言った。

「一緒に電車で行きますか? この後みんなと待ち合わせて一緒にロンドンに向かいます」

渡りに船。もとい電車!

私はA516号室の部屋を出るとき、いつも「行ってきます」と言う。

アルンと別れて部屋に戻り、さっきまとめたばかりのリュックをつかんで部屋をあとにする。

「行ってきます」

さっきそう言った、自分の声がはずんでいた。

アルンと待ち合わせした5階ロビーで、彼に紹介してもらった台湾人グループの面々に、数人みおぼえがあった。
たまに廊下やレストランですれ違って、いつか話せたらなぁ、と気になっていた人たちもいる。

アルンに紹介された人たちの一人に、通訳兼お世話係の台湾人女性がいた。

よく階段ですれ違って、お互いに目が一瞬合うけど挨拶のきっかけがないままの一人だった。
くるっとした大きな目をした、ボブカットの女性。
前からなんとなく気になって、話してみたかった女性。
自己紹介をしあう。ヤーウェン。
たぶん年齢は私と同じくらいか、少し下だろう。
日本人男性と結婚して東京で暮らす、なめらかな日本語を話す女性と知った。

アイビーという小柄な女性も、アルンに紹介してもらう。
彼女が、今回の台湾人グループの宿をロンドン・ブリッジの近くにネット予約したらしい。

「今日の今日で部屋が空いてるかわからないけど、まずは一緒に行ってみましょう」
「ありがとう!」

隣にいたアルンに、私から訊いた。

「私は宿に泊まりたいけど、アルンも一緒に泊まりますか?」
「OK」

アルンはうなずいた。

「じゃあ、部屋が空いているか、現地で直接訊いてみましょう」

意図した望みを叶えるために、必要な情報が、つぎつぎに集まり始める。

赤いダウンベストを着た、いつも笑顔の推定60代の男性は、私の部屋と同じ階の台湾人だった。
彼は夫婦で乗船していて、名前は勇(ゆう)ちゃん。
英語が話せない彼と中国語が話せない私は、にこにこ笑顔をつかって会話する。

話すきっかけが欲しかった人たちの情報も、集まってくる。
すごい。

ロンドンでやりたいことも一つ浮かんだ。
本を買いたい。

勉強目的の、興味がない中身の英語の本じゃなくて、読みたい世界を英語で開くための本。
夫にLINEして、ロンドンでおすすめの本屋さんを調べてもらった。
リンクが送られてきたが、リンクを開くのにも時間とお金がかかるので、本屋の名前と住所だけメモする。

大英博物館のそば、テムズ川からそう離れていない場所に本屋さんが3軒ほどあるのがわかった。

今朝、ロンドンに泊まろうと決めて、動いた。
電車に乗ろうと決めて、動いた。
宿を探そうと決めて、動いた。
本屋に行こうと決めて、動いた。

そうしたら必要な次の手が集まりだした。

早朝、読み返した本に書かれていたとおりになった。

台湾人の夫婦2組や、一人参加の女性など7名と一緒に港をでた。
アルンの自転車に茶目っ気たっぷりに乗るゆうちゃん。

アルンは港のターミナルを出ると、自転車にまたがった。
こうやってあちこちの寄港地を自転車で移動してたのか。
こんな旅もできるんだな。

写真を撮っていると、「あなたも乗りますか?」とアルン。
港からティルベリー駅まで1kmほどの道のりを、少し乗らせてもらった。

楽しい。

20分ほど歩いて、ティルベリー駅に到着。
ここでチケットを買ってロンドンへ向かう。

ゆうちゃんが、何かを中国語で言って私にお菓子をくれる。

互いの言語が通じなくても、笑顔の方がずっと多弁だ。
旅の途中で食べる小さなお菓子は、おいしいから。

好意を受け取る。ありがとう。

ロンドン行きの午後3時半の電車に乗る。

行ったことのない場所は、実際よりもずっと遠い場所に感じるけれど、ロンドンまで電車一本で、1時間もかからないらしい。

自転車を車内のポールにつないだアルンと一緒に座った。

駅に到着。
駅名は Fenchurch Street。

一人で行こうとしていたらきっと「ロンドン駅」で探していただろう。

アイビーの予約した宿は、ロンドンブリッジを渡って5分ほど歩いた便利な場所にあった。

受付で今日の空き状況を訊く。
さいわい2ベッドが空いていた。

専用アプリから予約すると10ポンド安くなると受付の女性が教えてくれた。
宿のWi-Fiにつないで、その場でアプリをダウンロード、宿を予約する。

アルンがスマホ操作に手こずっていたので、8人部屋の同じ部屋に2人分確保し、二人分まとめてクレジットカードで払った。
朝食を付けて95.80ポンド。約8200円。

船旅、初めての外泊。
幸運にも、私のベッドは窓のそばだった。
窓!まどー!!

光と風がベッドをなでるのが、こんなにうれしいとは。
ベッドは硬いけれど清潔なシーツだ。じゅうぶん。

足を投げ出して、リュックの中身をベッドに開けていく。
パソコン、充電器、ケーブル類、モバイルバッテリー、モバイルWi-Fi、機器ものは重い。
外泊だと、いつものリュックより重い。

パソコンからネットにつないで、仕事の連絡をいくつか。
寄港地と寄港地のあいだはほぼネットが使えないので、その分の細かな作業がチリのように増えている。
時間があっという間に過ぎる。

同じ部屋を取ったアルン以外の、台湾の人たちとは、すでに別行動だ。
明日もなんの約束もしていない。
なので、自分のペースに寄せていく。

1時間ほど仕事してから、アルンと宿を出て食事に出かけた。

イギリスごはん、なんだろうね、フィッシュアンドチップスかな。
それくらいの感覚で、二人でボローマーケットを歩き、レストランを探す。

思っていたより肌寒い。
テムズ川から吹く風がワンピース一枚だとちょっと寒い。
ジャケットを取りに行くのもめんどうで、そのままガシガシ歩く。
自家発電であったまろう。

どこのレストランも人が多い。

日が長いので夕方みたいだけれど、夜の8時。
金曜日の夜だった。にぎわうよね。

レストラン前の看板メニューを眺めていると、「ここのギリシャ料理おいしいよ」とテラスで食べている男性が私たちに声をかけた。
ギリシャ料理か。確かにメニューにムサカがある。
サントリーニ島で食べたラザニアの名前。

「ありがとう。今日イギリスに着いたので、フィッシュアンドチップスが食べたくて」

私が言うと、彼はうーん、と少し考えてからテーブルを立ち上がった。
同席の3人になにごとか言って、私たちに向き直る。

「おいしいところを案内するよ」

立つとものすごく背が高い。2mあるんじゃなかろうか。
名前をベンと言った。
ウェールズ地方出身で、いまはロンドンに暮らしているという。

5分ほど歩いて、案内してくれたお店はその名も「fish!」まんま!
メインの通りから奥に入って、細い路地を曲がった場所にあるレストランだった。
自力では見つけられなかったかもしれない。

「楽しんでね。いい旅を」

ベン、ありがとう。

テラス席に着いたら、かっこいい髪型の店員さんが
「水? 炭酸水?」と。
アルコール気分ではないけど、シュワっとしたい気分の炭酸水で。

そういえば、この旅でお酒を飲みたいと思うことがほとんどない。なんでだろ。
船内でも毎日飲む人がいるなかで、私はコーヒーと水と白湯がおいしく感じる。

ほがらかな店員さんに、王道のフィッシュアンドチップスを注文した。
それとフィッシュスープを。

かりかり、香ばしい。
鱈のフィッシュアンドチップス、おいしかった。
フィッシュスープはどろどろ濃厚。塩が効いていて温まる味。
ベンがおすすめするのもわかる。

大きな皿を二人で半分こして食べて、ちょうどよかった。

レストランを出ると、夕暮れ。
と言っていいのかどうかわからないが、夜の9時半の空。
写真を撮っていると、通りがかりの男性が私たちの写真を撮ってくれた。
ドイツからの旅行者だという。この寒いのに半袖。

遠回りして、タワーブリッジを渡って帰ることにした。
振り返ると上弦の月がかかっている。
寒くて、きれい。

タワーブリッジは、遠景の写真しか見たことがなかった。
実際に通るとこんなに大きな道でできた橋なんだ。

時間はすでに22時をまわっている。
人出はまだ多い。
あちこちで笑い声が聞こえる。グラスを合わせる音が聞こえる。
レストランもパブもあちこちまだ開いている。
でも帰る。

やることがある。

アルンと一緒に宿に戻り、それぞれの時間。

機器類が重く、荷物を少しでも軽くしたくてパジャマは持ってこなかった。
シャワーを浴びて下着だけ替え、昼間と同じワンピースをまた着た。

足が冷えないようにくつ下を履き、ベッドの布団をかぶって、ストールを首にぐるぐる巻く。
ベッド上部の明かりをつけて、パソコンを開く。

データのアップを始める。
1000以上のデータが、少しずつ同期されていく。

宿のWi-Fiの速度を調べると、16Mbpsだった。

ITに詳しい経営者の友だちに聞くと、その人の家の近くの商業施設でフリーWi-Fiの速度を調べたら、78Mbpsだったそうだ。
日本のネット通信環境って恵まれているんだな。

それに比べれば、この宿のWi-Fi速度は遅いけれど、船に比べて、ずっとずっと速い。
ギリシャの時よりも、データ処理スピードも速く感じる。

しかし、パソコンに触らずそのままでいるとスリープモードに切り替わり、同期が停止してしまう。
その設定をいろいろさわってみたが変更できなくて、結局データアップが終わるまで眠らずに、他の仕事をしながら起きていることにした。

8人部屋の男女混合の部屋で、誰かのいびきと、どこかの言語の寝言が聞こえる。
それがなんだか心強かった。

同じ時間に眠っている人がいる。
私は今夜は起きている。

今まで、地図にこだわり、ルートにこだわり、段取りにこだわってきた。

効率化、合理化。
コスパ、タイパ。
ムダなことしない。
要点を1分で述べよ。
結局、何を言いたいの?
わかりやすくしなさい。

本当は、それらすべてが大の大の大の苦手なのに、そうしなければ目的地にたどりつけないと思いこんでいた。
うまくできない自分に劣等感をつのらせてきた。

私の行動すべてに説明をつけなければ、誰からも応援も理解もしてもらえない気がした。
それで、もっともらしいマジメな理由を取ってつけてごまかしてきた。

地図よりもルートよりも大切な、心のコンパスの針路を無視していたら、ずいぶん遠回りしていたよ。

来年の私が、どこにいて、何をやっているかわからない。
今の私が必死にやっていることが、果たして何につながるのかもわからない。

それでも大丈夫な気がした。

今はコンパスを手にしている。
目的地へのルートも距離もわからないけど、針が指し示す方向に向かっているのは、わかる。



1000以上のデータ同期がすべて終わったのは、朝の5時だった。
2時間眠れる。服を着たまま寝落ちした。
目を閉じる前に見た窓の外は、すでに明るかった。
夜が短くてよかった。なんとなく。
昼間に活動してるっぽい。

7時すぎに起きて、アルンと食堂で朝食を食べた。
ビュッフェ形式で、好きなものを好きなだけ。

このあいだ船で観た映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に出てきそうな青リンゴが、木箱の中に1匹いて笑った。
誰だコレ貼ったの。好きです。

食事のあと、サンドイッチのお弁当をつくった。
胚芽パンにチーズ、トマト、きゅうり、玉ねぎスライス、ハムを挟んでホットプレートで焼く。
溶けたチーズがパンからはみ出して、おいしそうにできた。
ナプキンで包んで、今日のお昼ごはん。

アルンが自転車をレンタルして一緒にサイクリングしないかと誘ってきたが、断った。

ティルベリーに戻る夕方の電車の時刻をいくつかピックアップしてアルンに伝えて、また船で会いましょう、と食堂で別れる。
宿代の立て替え分の精算でアルンから受け取ったポンド札で、本を買いに行こう。

部屋に戻って、仕事の続きをもう少しだけやって、10時に宿を出発。

エジプトから積み上がったデータの山場をロンドンでやっと超えた。
おまけに寝不足で変なテンション。

あまり調べずに、オイスターカードという便利らしい乗り物系ICカードを買って、地下鉄を乗り継ぎトッテンハム・コートロード駅へ。

10時半過ぎに、一軒目の本屋 The ATLANTIS Book Shopに着いた。
映画に出てきそうなクラシカルな内装に、深い緑色の花柄ワンピースを着た女性が店番をしていた。
店の前には、魔法使いのほうきが2本、立てかけられている。
店内にはタロットカードやオカルトの本、西洋占星術、数秘、カバラ、瞑想、スピリチュアル関連の本がぎっしり。
魔法使い御用達のお店かしら。

4歳の女の子がシルベニアファミリーのうさぎのぬいぐるみを手に、魔法を唱えている。
隣でサンタみたいな髭のおじいちゃんが、孫の魔法にかけられてメロメロになっている。

そういえばイギリスでは、”占い”はエンタメというよりアカデミック寄り、”占星学” ジャンルだ。
西洋占星学の学位が取れる大学もイギリスにあると聞いたことがある。
サマースクールもあるらしい。

私は、5年間で1500人の方を占星学の知識を使ってセッションしてきた。
実際は、メンタルコーチングと、言語化と、占星術の3つを掛け合わせのような、ちゃんぽんのセッションだ。

もし私が、その占星学が学べる大学に行ったなら、今の自信はぺっちゃんこになって、また何か成長するのかな。
そんなパラレルワールドの自分をちょっとだけ想像してみる。
想像の私は、頭でっかちの気取った顔をしていた。なんかこわい。

魔法使いの本屋で、コロナ禍を機にスピリチュアルに目覚めた、とあるロンドン在住の男性作家のエッセイ本を一冊、買った。
14.9ポンド。

続いて、本屋のはしご。

少し歩くと大英博物館があり、その近くに本屋さん。
London Review Bookstoreへ。
さっきのクラシカルな本屋さんと違って、魔法使い以外の人も幅広く利用している雰囲気。

地下に降りていき、目が合った本を買った。
めちゃくちゃ分厚い。ずしりと重い。でも気になる。

『Sensitive』黒猫が物陰からこちらをうかがっているシンプルな装丁の本だ。
2023年の新刊。19.8ポンド。

リュックに入れたら、猫1匹入れたみたいに重くなった。

なんとなく、ぺぺ、この本が好きそうだな、と思う。
船に帰ったらぺぺに買った本の話をしよう。

寄港地でよく本を買うという読書家のぺぺと、にわかの「寄港地で本を買う」私。
きっかけはなんでもいい。
今の私の英語力でこの分厚い本を読み通すのは時間がかかりそうだ。
それでいい。

本屋のすぐそばに、大英博物館があった。
たくさんの観光客でにぎわっている。素通り。
今日はいいや。次があるか知らないけど。

国会議事堂に行って、ウエストミンスター大聖堂に行って、ビッグベンの前の公園でサンドイッチを食べた。

ビッグベンの前ではデモが行われていて、おおぜいの警察官がかりだされ、おおぜいの観光客と合わせてごちゃごちゃしていた。

バッキンガム宮殿まで歩く。
日差しの強さに、きゅうに疲れを感じて、宮殿の隣の公園で休憩した。
芝生に点在するアヒルのうんこの上に座らないように気をつけて腰を下ろし、水を飲む。
体が重たくなる。疲れと睡眠不足だろう。

昨日の駅に行き、ティルベリー行きの電車に乗った。
くたくたの頭で車窓の景色を眺めていたら、今朝読んだ本の言葉を思い出した。

………………………………

― 確固とした目標を打ちたてればよい ―

あなたがある町へできるかぎり早く着かなくてはならなくなったとします。
車に乗りこむ時、あなたは自然と目的地を心に描き、その方向に車を向けます。
道順がわからないと、道を間違えて違う方向へ行ってしまうこともあるでしょう。
しかし、最終的には、目的地に通じる道を見つけだします。

あなたは心の中に描いた目的地の絵によって導かれて、そこにたどり着くのです。

………………………………



「自分を大切にする」

最近よく聞く言葉だ。
本や雑誌やテレビやyoutubeや、さまざまなメディアで、年齢層とわず、その文字が大きく前面に出ている。

「自分を大切にする」という言葉から連想するのは、嫌な思いや辛い状況をとことん排除するイメージ。

イージー・モード。

ふわっとしている。
柔らかい。
やさしい。
あたたかい。

だけど、刹那的な「自分を大切に」を選んだあと、涙が枯れるほど後悔したことがないだろうか。
低い場所に流れるのは簡単、と藤井風くんも歌っている。

眠い。もう、寝ちゃおうかな。
きつい。もう、やめちゃおうかな。
お腹いたい。だるい。
気が乗らない。
悲しい。
もう、あきらめようかな。

そのほうが楽になるかな。

で、きょうは楽になって、あとで死ぬほど苦しくなるのよ。

「自分を大切にする」を言い換えるなら、「自分との約束を守る」かもしれない。

それは、ときとして、ハード・モードになる。



もう一人の自分と交わした約束を、全力で守る。
全力で叶えにかかる。

その姿勢をあらわす形容は、ちっともふわふわしていない。
柔らかくない、ゴリゴリ。
やさしくない、ビシバシ。
あたたかくない、キンキン。

易きに流れがちな「もう一人の弱い自分との闘い」だ。
やらない理由を饒舌に挙げてくる、あの人の言葉に耳を貸さない。

眠いよねー。でもやる。
きついねー。でもやる。
しんどいねー。でもやる。

もちろん、異常な頑張りや、劣悪な環境や理不尽を強いられた状況を「頑張る」でマッチョにくるむわけじゃない。

逃げた方がいいこともある。
諦めた方がいいこともある。

そもそも、約束そのものが、自分の嘘からつくられた価値のない歪んだ約束の場合もある。
無鉄砲な「でも、やる」は、音楽に思考停止したネズミが海に次々落ちていくさまと変わらない。

そうではなく、心の内側から届いた声にしたがって、交わされた約束を、守るのだ。

だって、やりたいんだ。
自分との約束を守り通して、涙目で逃げようとしたあの人にも、笑ってほしいんだ。
「あのとき逃げないでよかったね」って、二人で手を取り合って喜び合いたいんだ。

1000以上のデータを同期した昨日の私のやり方が、非効率な方法だったとしても、たぶんコンパスの針路は合ってる。

睡眠不足と荷物の重さがたたって、肋骨がギーギーさわぎ始めた。すっかり忘れてた。
やりすぎた。
ハードモードで肋骨ヒビが延伸したっぽい。
電車の座席でうずくまる。

いたいいたいいたい。楽しい。



追記:

なぜか、イギリスで撮った写真の7割がスマホから消えてました。
なので画像や動画がところどころありません。
バッキンガム宮殿も、ビッグベンも、ウエストミンスター大聖堂も、公園のアヒルたちも、消えました。
魔法使いのしわざか、なんの暗示か。


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