【洋上日記】2023年6月23日 船旅78日目 きついし、だけど楽しいよね。

気温 30℃ 海水温 30 ℃
横浜から22831マイル

6時半に目が覚める。
朝っぱらから愛があふれてなんなん。
内側にひたひたと満ちている。

昨夜、ココちゃんと丸ソファで語り合った時間の豊かさ。
10回目のワークショップ終了後に、初めて参加者から拍手をもらったこと。
ホワイトボードに書いたレクチャー内容を、英語の先生や乗客がめいめい写真を撮ったり、真剣に書き写す姿。
たどたどしい英語の説明を、真剣に聞いている表情。

「愛で生きよう」という姿勢は意志だ。
だから強いし、やわらかい。

でもまだ、私のは脆い。
のびしろのびしろ。

7時20分のヨガストレッチ中、体を動かしながら「内側の自分」と、愛出身の対話をしていた。
はたから見れば、目は開いていて、なにも見ていない表情をしているだろう。
フォーカスは見えない場所にある。
しきりに私に語りかけてくる内側の私。
話したかったんだね。

朝8時、14階でばったり会ったけいちゃんとナッキーと朝ごはん。
宇宙の話、AIの話、ロボットの話(ナッキーはロボット愛好家)、スピリチュアルの話。
ぶっとんだ話を、知り合ってほんの2ヶ月の人たちとしている。

ナッキーが洋梨をナイフで剥きながら「これ、かたいんだよ」と言った瞬間、手から洋梨がすべって空中を飛んだ。
3人で大笑いする。

「俺さ、船に乗る前はこんなに笑ってなかったよ。最近よく笑うんだよね」

とナッキー。
ナッキーの笑顔は、豊かな白髪と髭によく映える。
笑わなかったなんて意外だ。

9時、同じフロアの台湾人のご近所さん、ゆうちゃんにばったり。
ロンドンで同じ電車に乗った仲。私を見るといつも笑ってくれる。
ゆうちゃんは中国語でなにかを言い、手招きして、私を部屋に招待してくれた。
バルコニー付きのお部屋!
奥にバルコニーと、流れていく海と空が見える。
これが毎日の景色なんだなー。

部屋には奥さんがいて、ベッドに腰掛けタブレットでゲームをしていた。
挨拶をして、互いの名前を漢字で教えあう。

ゆうちゃんはセピア色の石でできた、ちいさな飾りを私にくれた。
中国語でなにか書いてある。ラッキーチャーム、お守りらしい。
ありがとう。
いつも持ち歩く小さなバッグにつけてみた。

今日の船はよく揺れる。
揺れているのでオープンデッキへの出入りを控えるよう、船内放送があった。
船酔いなのかわからないけど、頭が痛い。重たい。
寝不足だから? 
ここのところの睡眠時間は4時間程度。
だけど、朝早くにアラームもなく目覚めるの、幸せなんだけどな。

頭が痛いのでベッドに横になっていると、ノックの音が聞こえた。
ソフィアントとモクリースが、ミーゴレンのインスタント麺を4つ、私に渡す。
このあいだ私がみんなで食べて、と渡したチーズのお返しかな。
ありがとう。
記念に写真を撮ろうとすると、はやばやとソフィアントがピースして体を傾け、スタンバイしている姿がかわいかった。

夕方、バンド音合わせ。
練習がもっと必要。最近、自主練してなかった。
時間がいくらあっても足りない。

明日のパナマ入港に向けて、パスポートの受け取りへ。

どんどん、港が近づく。
どんどん、港が離れていく。
準備していようがいまいが、船は進む。

夜ごはんに14階にいくと、ナッキーが一人で座っていた。
一緒に食べながら話をする。

ナッキーは船に乗る前は笑顔がなく、あっても作り笑いで生きていたという。
船に乗ったらすごく面白い人たちがいて、よく笑うようになった。
そう言って笑うナッキーは、見ているこちらまでくつろぐ自然な笑顔だった。

「でもさ、さよちゃん。
船に乗りながら仕事するって、大変でしょ。すごいと思うよ。
俺、100%遊びで乗ってるもん。さよちゃんは違うじゃん」

「うーん。大変だけど、楽しいです。
自分で決めたことだし」

ちょっと強がりもあるかなぁ、と思いながら私が答えると、ナッキーが何かを思い出す表情になった。

「好きなことでも、しんどいよね。
きついし、だけど楽しいよね。
たまに寝ないで仕事してさ、大変だったりするけど」

50年勤めた仕事では、水を浄化する機器の営業、販売、設計すべて、一人でやっていたという。

「ほんと大変だったけどさぁ、面白かったんだよね」

デザートのキウイの皮をナイフで剥きながら、静かに笑った。
ナッキーが笑った瞬間、手にしたキウイが滑ってすぽんと飛び、私の足元に着地した。

「ちょっ!」
「なんでよ!」

足元のキウイを笑いながら拾って、私の空になった皿に乗せた。

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