【洋上日記】2023年6月18日 船旅73日目 今どこにいても、あなたはすこしずつ成長しています

気温 24℃ 海水温 23 ℃
横浜から20731マイル

ここのところ目覚ましのアラームが鳴る前に目がひらく。
朝に弱くて何度もスヌーズ機能で鳴らして起きていたのに、なんの変化だろう。
起こされず起きられるのは静かに嬉しい。

3日前から、7時20分に始まるヨガストレッチの早朝クラスに参加し始めた。

無料で受けられるカルチャースクールが船内ではいろいろ開催されている、そのうちの一つ。
人気のクラスなので開催スペースがいっぱいになりやすいが、少し早めにいってはじっこの場所を確保。

朝8時過ぎ、14階レストランでけいちゃん、ゆきちゃん、ナッキーと会う。
といっても示し合わせたわけでもなく、自然と会う。

乗客はつねにネットにつないでいない。
手にしたスマホは時計とカメラとメモ機能が主な役割になる。
なので、ラインやメッセンジャーの連絡ツールを使うことなく、タイミングで会いたい人にどこかで、会う。

ただ、会えない時は会えない。ぜんぜん会いたい人に会わないときもある。
探しても会えないし、部屋に電話してもでない。
2000人以上乗っている船で、いまだ名前と顔が一致しない人はいくらでもいる。
縁って不思議だ。

朝ごはんのあと階段でマリアにばったり。
マリアにっこり。

「昨日はワークショップありがとう。あなたの英語も話す内容もとても好き。
”愛と恐れ”について、ちょうど私にとってのテーマだったからわかる気がした」
「ありがとう」
「相談したいんだけど」

階段で立ち話が始まる。
相談内容を理解できたのは4~5割くらい。
英語の読解力の低さを感じる。
でも、そんな私に相談するマリアに私が渡せるものは渡したい。ので必死。ので真剣。

いま向き合っている課題について「It’s difficult.(難しい)」のフレーズを彼女が繰り返す。
自信ありそうなのになぁ。
まゆが下がって困った顔をしているマリアを見ていて、思いついたことを話してみる。

「すぐに成長を感じられなくても、すこしずつ成長しているのだから、大丈夫だよ。
ただいま成長中、と思うことからはじめてみたらどうだろう。
それと、マリアは『私には難しい』とすぐに言うよね。
前に話した”内側の私”の話は覚えてるかな。”内側の私”は、とても素直で信じやすいよ。
マリアの言葉を信じてしまって『そうか、私には難しいことなんだ』と学習して、そのとおりになってしまう」

「あー・・・私。
難しい、ってすぐに言ってしまうよ」

「それでもいいよ。悪いことじゃない。
試しに、今日から、『難しい』って言った数を数えてみて。
1日で何回、その言葉を使っているか。
これは、自分をダメだなあって責める目的で、数のカウントをするんじゃないよ。
あ、こんなに普段わたしは難しい難しいって言ってるんだー、そっかぁー、って客観的にチェックするイメージで。
気づく練習にいいよ。
おとといは何回、昨日は何回、今日は何回、、、数をメモしてもいいね。

で、数を減らしたいなと思ったら、ちょっと意識して、減らしてみる。
たとえば昨日は10回言って、今日9回だとしたら、1回減ったことになる。
『ああダメだなぁ、まだ9回も言ってる』じゃなくて、『あ、1回減ったな』と。
責めずに、たんたんと。
そうしているうちに、少しずつ変わっていくよ。

『私には難しい』って言葉は、とても強力で、ゼロ、0なの。
実はほんのすこしずつ、ゼロから1へ、2へ、3へ・・・って成長している最中なのに、その言葉を言った瞬間ゼロに戻ってしまうくらい強い言葉。
2や、3になるまでコツコツがんばってきた自分をなかったことにしてしまう。
それって、悲しいでしょう」

「うん」

「ムズカシイは、ゼロで、カンタンは、100だとして。
何かを習得して簡単だと感じるまで、急に100に変化しないで、それなりに時間がかかったでしょう。
ムズカシイとカンタンの間の、1、2、3、3.5、、の部分を観察してみて。
マリアも私も、いきなり成長はしない。
成長のグラデーションのなかにいる。
0か100じゃなく、0か10じゃなく、その間にたくさんのなにかがあるよ」

・・・ということを身振り手振りで話した。
伝えたいことを言えた感、3割。
たどたどしい英語で、文法もボキャブラリーも間違いだらけだろう。

そんな私の話を真剣な表情で何度もうなずきながら聞くマリアがありがたかった。

そして、前よりもリラックスした気持ちで彼女と話している自分に気づいた。
ほんの4、5日前はすごく緊張してマリアと会話していたのに、どうした。
くつろいだ気持ちで立ち話をしている自分にちょっと驚く。
私も成長のグラデーションのなかにいる。

あ、今日のワークショップのレクチャーのテーマはこれにしよう。

「Sayo、ありがとう。数えてみる。
そういえば私のGET(洋上英語クラス)に、すぐ『私にはムズカシイ!』って言う生徒さんがいるわ。
私も一緒だね。
こんど生徒たちにも、その話してみる」

「うん」

午前中、14階右舷側のテラス席にいると、何人かの人が声をかけてくる。
レストランのすぐ隣なので、人の往来はそれなりにある。
たまに「ここにいると思った」と言われるときもある。
ネットがなくて連絡ツールにとぼしい私たちは、「ここにいると思った」な場所をつくってみるのもいいのかな。
マリアとぺぺが通りがかって「Sayo~」「Sayo~」と声をかけて手を振る。
ピースボートスタッフの女性や言語アシスタントの人たちが通りがかって、挨拶して、それぞれの仕事に向かう。
私もここで仕事する。

午後、ドラム練習。
練習場であるシアタールームの裏へいくと、なぜかドラムセットがバラバラになって転がっていた。
どこかのエリアで使って運び戻したばかり?
ドラム歴20年のTくんがドラムを組み立ててくれた。ありがとう。
組み立てに時間がかかったぶん、練習時間は10分ほど。
Tくんのドラムはめちゃくちゃかっこいい。パワフルで心拍数が上がる。すごい。

夜9時半から書く瞑想ワークショップ、16名参加。
今日のレクチャーは、今朝マリアと話して思いついた内容で。

「You are in progress day by day」

ホワイトボードに、ぐにゃぐにゃの曲線を描いて、すこしずつ右上に上がっていくラインにした。

曲線のところどころに、顔を描いた。

波が上がっているところは、嬉しい顔。
波が下がっているところは、つらい顔。

今のあなたはどこにいると思いますか。
上り調子? 下り調子?

どこにいても、日々すこしずつあなたは成長しています。
なので心配しなくて大丈夫です。

・・・というようなことを、汗かきながら英語で話す。
カンペも書き殴りでぐちゃぐちゃ。
手にしているノートの文字が読めない。すっとばす。
単語がでてこない。
ジェスチャーに頼りまくる。
早口になる。

マリアが奥のテーブルに座って、やわらかい表情でうなずきながら聞いてくれている。

ワークショップ終了後に私がほかの参加者の方と話していると、マリアが近づきホワイトボードの写真をスマホで撮っていたのが心に残った。

「あなたの描くイラストも好き」

ありがとう。
私に自信をつけてくれて。機会をくれて。

…………………………

感想やメッセージもお待ちしています!
しんがき佐世への質問・メッセージはこちら▶︎