【洋上日記】2023年7月9日 船旅95日目 自信がないふりをやめる

気温 26℃ 海水温 27 ℃
横浜から27771マイル


帰国まで残り13日

2時に寝て5時45分に目が覚める。ぱっと体を起こす。
明日はクルーズ最後の寄港地ハワイに入港する。

の、前に。

顔を洗い、歯磨きして水筒の水を飲み、机の前に座る。
椅子に座り背筋を伸ばす。
パソコンを開き、アイスランド編(1)の文章チェックと校正。
それから画像と動画の挿入箇所の指示入れをテキスト内に挿入する。
OK。

続けてアイスランド編(2)も同様にチェック。
校正、画像と動画指示入れ。
OK。
2本完成した。

今回の原稿は、日本のスタッフに送る前に、けいちゃんに1本チェックをしてもらうことにしている。

Macを閉じると朝7時。
服を着替えて部屋をでて廊下をまっすぐ進み、階段を一段飛ばしで上がる。
朝の習慣になったヨガストレッチへ向かう。
デッキに出るとすでに太陽があがって気温も高め。
今日も暑くなりそう。

小さなバッグに入っているのは水筒と、ヨガマット代わりのバスタオル。

ちょっと強く引っ張れば大きく裂けそうな、生地が傷んで透けた、ぼろぼろの古いバスタオルだ。
家から持ってきた20年選手。
20代の頃の・・・会社員時代の、どこで買ったっけな。
涼しげなミントグリーンの色で、お気に入りだった。
この旅の終わりにさようならする。

ヨガを担当する、N講師のゆるがなさが好きだ。
笑顔を絶やさない強い人。

カルチャースクール講師として乗船するN先生は、途中コロナに罹ってお休みしていた期間をのぞいて、ほぼ毎日、多数のクラスを受け持っている。
ハードスケジュールにもかかわらずつねに笑顔で、引き締まった身体を毎日きびきび動かし燃やしている。

ヨガクラスに参加する韓国人には韓国語で話し、台湾や中国人には英語で話す。
肩甲骨や骨盤周りの耳なれない骨と筋肉の説明をするために、筋肉がプリントされたTシャツにパッと着替えて自身の体を指差しながら「ここの筋肉を、意識しましょう」と全身を使って説明する。
説明が端的でわかりやすく、参加者の広い年齢層をカバーする言葉を選ぶ、あたたかい知性の持ち主だ。
それでいてお祭りなどのイベントでは、ティラノザウルスの着ぐるみをきて女子高生より激しく跳ねまわる。
はっちゃけっぷりが素晴らしい。
静と動のバランスのとれた、魅力的な人だ。

先生の声かけに合わせてヨガのポーズをとりながら、仰向けになって天井を見上げる。
静かな気持ちになった。

そうか。

強くないふりを、もうやめよう。
自信がないふりも、やめよう。

意思が天井から降ってきた。

自信なさそうにふるまって、私を守ってきた。
そうすることで自分の人生を生きる責任から逃げてきた。

謙虚と卑下をはきちがえたふりをして、私が私を「弱い者」と見なしてきた。

(この人、大丈夫かな)
(なんだか頼りないなぁ)

周囲から、そう言いたげな視線を感じると安心した。
心のうちで返事をしていた。

(そのとおりです。私は頼りなくて弱いんです)

私に期待をかけないでください。
自信ないんです。
「自信」も「責任」も、私にふさわしくないんです。



20年もののバスタオルみたいだ、そのアイデンティティ。

もういいんじゃないかな。
たくさんの汗と涙を吸いとって、洗うたびに色も褪せてくたくたになった。
すりきれた生地の向こうに自信が透けて見える。
間違ってぶつかって遠回り、オリジナルの体験でできた自信のかけら。

いばるでもなく、大きく見せるでもない。
シンプルに自分の強さを認めよう。

自分の強さを認めた私に、どんな展開がおとずれるだろう。

ふさわしい出来事が起こるのかなぁ。
自分の強さを認めた世界入門編、お試しイベントとかあるんかなぁ。ひぃ。
上がったり下がったり、ただでさえ心は大忙しだ。

不安とわくわくの武者震い、鳥肌がたった。

目を開けたら、みんな違うポーズをとっていた。
あわてて起き上がる。
身体の下でバスタオルがよじれた。

ヨガを終えて部屋に戻ると、すぐに電話がなった。

「サヨ サン?」
「Yes」
「Hi, I’m Gagan」

ガガンからだった。

明日のハワイ寄港3日間のうち、初日か2日目を一緒に動こうと話をしていた。
ガガンの都合がついたので、初日に待ち合わせして出かけようと話がまとまる。

「よかった。では、明日の朝9時に、5階で会いましょう」

ガガンの穏やかな声。

ハワイもいつも通りノープランだったが、前日にするりと予定が決まった。

けいちゃんにアイスランドの記事のチェックを頼むため、14階レストランで彼女の姿を探すが、見つからない。
いつもならこの時間に、朝ごはんを食べてるのにな。
部屋に電話すると、けだるい声のけいちゃんの声がした。

「発熱して、ここのところずっと寝てたの。
もうずいぶん良くはなってきたんだけどね」

原稿を見るくらいなら平気だから部屋においで、と言うけいちゃんに甘えて、8階の彼女のスイートルームへ。
ここに来るのは3回目だろうか。
ロングイェールビーンで買ったシロクマのぬいぐるみが部屋でくつろいでいた。

「動画撮ってもいい?」
「いいわよ、どうぞ」

部屋が二つあり、広いバスタブやミニキッチン、ゆったりしたソファがある。
どれも私の部屋にはないものだ。
なによりも魅力的なのは大きな窓とバルコニーで、部屋じゅうに自然光が満ちている。
部屋から航跡を眺められる。
海の香りがする部屋。

私のパソコン画面で直接、書いたばかりの原稿を読み終えたけいちゃんが顔をあげて微笑んだ。

「ぜんぜん問題なし。素敵に書いてくれてありがとう」
「よかった」

すぐに帰ろうとした私に、けいちゃんが冷蔵庫からペリエを2本取り出して1本くれた。
スイートルームには、ペリエが常に冷蔵庫に補充されている。

「冷蔵庫にペリエってなんかカッコいいな。私も似合うようになろう」
「もうなってるわよ」
「・・・ありがとう」

二人でペリエを飲みながら、少し話をした。

けいちゃんはダンスと歌、私は仕事とバンドフェス。
お互いの活動エリアやコミュニティが違うので、けいちゃんと話すのは久しぶりだった。

仕事がうまくいかずいっぱいいっぱいの私に、けいちゃんが藤井風くんの曲を聴かせてくれて、泣いたのもこの部屋だったな。
いろんな出来事が同時多発に起こって、たった1ヶ月前なのにずいぶん昔のように感じる。

「私ね」

けいちゃんがペリエを一口飲んで言った。

「私、元気なのが自慢だったのに、ここのところ調子がよくなくてびっくりよ。
こんなに長引くなんて、今までなかったもの」

「けいちゃん、風邪ひかないって言ってたもんね」

「そうよ。なんだかね、ただの体調不良じゃないみたい。
何かが起こってる気がする。
体調くずしてる人も私の周りに多いし」

けいちゃんは次元上昇の話と、アセンションの話をした。
”地球のスピードが上がってる”のだそうだ。
20代のころ、作家の小松左京氏に同行してエジプトに行った彼女の、不思議な体験と運の強さは群を抜いている。
地球のスピードが上がっているのか私にはわからないけれど、わからなくて理解できないものを「それはない」と誰も言えない。
人が発電機を発明する前から電気は存在していた。

「今回、船を下りたら、乗る前の私とすっかり変わってる気がするのよ」

初めての乗船ではないけいちゃんが、そう言った。
きっと、そうなのだろう。

けいちゃんにお礼を言って部屋をあとにし、7階の右舷デッキへ。
誰もいない木のベンチに座って、もらったペリエを飲んだ。

左から右へ流れる海を見ながらイヤホンでドラム練習。エア練。
台湾人のゆうちゃんが通りがかって親指を立ててニカっと笑い、練習している私の写真を撮った。あああ。

「まじ『天体観測』のギターむずい」

バンド仲間のOは今日も、音合わせの時以外は部屋で練習している。
短いぼやきを切り上げ、窓のない二人部屋で練習を重ねる。
経営者から専門職へ、再び経営者へ、と異色の経歴を持つ彼は、たいてい誰かとふざけた会話をしている。
努力する姿を見せたくない、と言う。
私もがんばろう。

お昼は14階で。
今日のフルーツはパイナップル。うれしい。
肉炒めや魚のソテーのほかに、クレソンやレタス、生の人参、トマトなどサラダどっさり。
生野菜をどんぶり2杯くらい食べている。
別の皿にパイナップルも。

テーブルを通りがかったコウキが、皿のパイナップル山を見て「どーゆーこと?」と呆れた顔になる。
盛りすぎました。

午後からセッションを3人。
一人目はコウキ。
彼は占いのたぐいを全く信じないゴリゴリの理系人間だ。
Oと同様、努力の水準がずば抜けて高く、努力を他人に見せないタイプの人だ。
「なりたい自分になるための行動」にそもそも「努力」と名前をつけていないっぽい。

スピリチュアルもオカルトも、非科学的な話は信じない。
「だってワタシ、数字やデータの院卒の人間よ?」と言うわりに、船の怪奇現象に出くわす愉快な人でもある。

彼は「占いは信じないけど、なんかおもしろそう」なノリで私のセッションを受けた。


「自己分析みたいなもんでしょ」
「そんなもんだよ」

セッション中、コウキの表情がぐるぐる変わるのが面白かった。
目を見開いたかと思うと、激しくまばたきする。

「え、なんでわかるの? なんで? そんなこともわかるの?」
「うん」
「えー、ちょっと! マジでその通りなんだけど! 
 じゃあさ、これってどういうこと? あのさ・・・」

夕方から、Jさんの誕生日ディナーにお呼ばれ。
ジーンズからワンピースに着替えて8階のディナー会場へ。

私自身は、誕生日を友人知人に祝ってもらいたいと思わない。
産んで育ててくれた母や父への感謝はある。
ご先祖さまあっての私だ。
誕生日をもらったのは奇跡だ。

ただ単に、誕生日や記念日を他人に祝われることに興味がない。
自分の結婚式や披露宴も苦手で、夫の希望で式をあげた。

けれど、幸せそうに笑っている人を見るのは好きだ。
幸せを確かめあう集まりに呼んでもらえてありがたいな、と思う。
Jさん、誕生日おめでとうございます。

いつもはTシャツ姿でラフな格好のJさんが、スーツをビシッと着こなしていて、すごくかっこよかった。
日本から持ってきたという個性的なネックレスが似合っていた。
Jさんと仲のいいSと、Fの二人のウクレレ演奏に合わせて、みんなで歌を歌う。
なんかリア充みたいだわ、私。

ディナーのあと、夜8時からバンド練習へ。
1回目の音合わせのあと、ドラム歴20年のTくんが私のほうへやってきた。

「ずっとズレてるの、気づいてた?」
「気づかなかった」

私が答えると、Tくんがうーーん、としぶい顔になった。
私のリズムが崩れているらしい。

これまでプロのドラム奏者の演奏動画をスマホで見ながら練習していた。
音数が多くてリズミカルでカッコいいけれど、あと数日で真似するのは無理だと悟る。
音数を減らしてもいいから、リズムを保つ。
練習しよう。

夜9時半から、書く瞑想ワークショップ。
今日は5名の参加。
翌朝はハワイだから、参加率が少なめなのかもしれない。

レクチャーが終わると、OJさんがノートを閉じて「今日のエネルギーもびんびん感じました。感動しました」とにこにこ。
ありがたいなぁ。
ありがとうございます。

ワークショップ終了後、鑑定セッションを1名。
同じ部屋のテーブルで行った。

みんな、いろいろな悩みがある。
私がセッションで渡すのは、相手がなんらか行動を決めるのに必要な判断材料だ。
とりわけ、自らを不当に低めている自己評価の歪みに気づいてほしい。
すでにある魅力に気づいてほしい。
そう思うと言葉が熱を帯びて、だいたい時間をオーバーしてしまう。

セッションを終えて、今日の予定は全部おわり。
セッション4名、ワークショップにと詰め込みすぎた。
くたくた。
だけど、疲れたまま部屋に帰りたくない。
風にあたりたい。

14階の後方デッキへ行くと、20人ほどの人たちがにぎやかに飲み会していた。
にぎやかさを避けるように12階デッキに下りて、ひとけのないデッキチェアに寝ころがって音楽を聴いた。

イヤホンから流れるメロディが聴こえないはずの白い鳥3羽、曲にあわせてすぅーいっと夜空を飛んでいた。

弱々しいふるまいと引き換えに手に入れたものに、ありがとうを伝えて手放そう。

弱くなれる自分は好きだけど、弱い自分はいやだ。
アホみたいに動いて積みあげたオリジナルの体験に、自信と名前をつけてもいいんじゃないか。

強くなりたい。だから強く在る。
やさしくなりたい。だからやさしく在る。
美しくなりたい。だから美しく在る。
たくましくなりたい。だからたくましく在る。


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