【洋上日記】2023年7月8日 船旅94日目 ワインと居酒屋波へい

気温 24℃ 海水温 23℃
ホノルルに向かって航海中


帰国まで残り14日

4時に起きる。
アラームなしに目を覚ます理由が突然わかって一人で泣いた。
ああうれしや。
ずっと応援されていたのだ。
豊かな孤独ってこういうことか。

6時半にノルウェー編(4)原稿完成。

今日はココちゃんとのコラボ企画の第二弾、第三弾がたてつづけにある。

セッションは2件。
誰から聞いたのか「私もやってほしい」と声をかけられることが増えた。


帰国まで2週間を切って、みなそわそわしている。
終わりが見えると「いつか」と先延ばしした日々にラインが引かれる。
キリのいいところで人生は始まってくれない。
年末も年始もない、旅は終わっても終わらない。
いつまでたっても訪れない「いつか」のために「終わり」が発明されたのかな。





7時にガガンと朝食。
彼は台湾人5人と予定していたレンタカー移動を1日抜けて、ハワイ初日を一緒に歩くことになった。


ガガンも船の記事を中国語で書いており、帰国後に出版するそうだ。
作家仲間だ。

「今どれくらい進んでますか?」
「7割がた終わったよ」
「おお、順調ですね」
「あなたは?」
「半分くらい。6月5日のロングイェールビーンにいます」

今は一ヶ月前の北欧、ノルウェー編を書いている。
時間がかかってます、と頭をかかえて笑う私に、ガガンが微笑んだ。

「ワインみたいだね」
「ワイン?」
「寝かせて美味しくなる」

寝かせる・・・

言いたい言葉、英語でなんて言うの?
スマホのGoogle翻訳に打ち込む。

「fermentation(発酵)?」
「そう」

ガガンがうなずいた。

「ワイン造りと同じように、時間が必要なものもある」
「だといいな。本質的な感じがします」
「そうだね、具象にかくれた本質的なものを見つける時間」

なんて素敵な考え方だろう。
文章になる前に、私の内側で発酵させる。
出来事の具象から離れて、元の形と似ても似つかぬものになる。

私たちのテーブル席のそばを、ぺぺとコウキが通りがかった。
ぺぺが、私とガガンに気づいてにっこり手を振る。
コウキが「おはよー」と足を止める。

「なに話してんのー?」
「お互い記事を書いてるって話」
「ふーん」
「コウキは本、読む人?」
「読まない。『読め!』って言われたら読む」
「そんなこと言わないよ!」

私が笑うと、コウキが急に舌ったらずな声で、ふにゃんと首をかしげた。

「『読んで♪』って言って?」
「読んで♪」
「オッケー!」

つられた。

こんな記事だよ、と、スマホでオフライン表示状態の記事を見せる。
画面をのぞきこむコウキ。

「エッセイ、読みたい」
「ありがとう。メルアド教えてくれたら記事を送るね」

ぺぺから聞いたのだろう、「さよのセッションも受けたい」とコウキが言う。
それで明日、ハワイ入りの前に彼のセッションをすることになった。

彼のコミュニケーション力と頭の回転の速さにいつも舌を巻く。
高学歴にハイキャリア、いわゆる「高スペック」な自分を自覚しつつ、相手を圧倒させない茶目っ気がある。
きっと繊細で優しい人なんだろう。
細かなところをよく観察している。言わないだけで。

じゃあねー、と二人は朝食を載せたトレイを手に行ってしまった。
すでに早朝の筋トレやストレッチを一通りすませて朝ごはんを二人で食べるのだろう。
朝早く後方デッキに行くと、スタジオで彼らがトレーニングしている姿を見かける。
遅くまで飲んでも、早朝トレーニングを欠かさない彼らの自律性が美しい。
なりたかった大人のお手本を見せてもらっている気がする。年下だけど。
二人が仲良さそうに一緒にいるのを見ると、いいものを見たなと思う。

朝9時、外はもう暑くなってきた。
日差しが強い。
ハワイに近づいている。

「船のテレビみましたよ」

朝ごはん中の顔見知りの台湾人夫婦が、急に私に声をかけて(ファッ)とうろたえる。
ご主人がにこっと笑顔で、昨日の日の出日の入キャスターの真似をする。

「雨の日も、好きです」

汗がどっとふきだした。

10時、ピースボートセンター前でばったりYちゃんに会う。
いつでも渡せるように持ち歩いていたポストカードを2枚渡した。
ロングイェールビーンの世界最北の教会でもらったポストカード。

「さよ」

廊下を通りがかったベアが手を振った。
身長190cmの恵まれたスタイルを生かした、20歳のモデルでもある。
本業は大学生だ、たしか。

彼が初めてピースボートセンターに行ったときに熊柄の服を着ていて「ベア」と名付けられたらしい。
ピースボートらしいあだなの由来。

「ジャマイカ、よかった」

昨日渡したジャマイカの記事をもう読んだらしい。

「句読点の場所がいいね。さよの声で聞こえてくる」
「句読点について感想もらうの初めてだよ。ありがとう」
「読むの好きだから」

”若者は本を読まない”と誰が言った。
主語が大きいと本質を見失う。
年齢に関係なく読む人は忙しくても読み、読まない人は暇でも読まない。

「さよ、あのジャマイカの記事書いたのっていつ?」
「17年前」

ベアが、よくわからない、という顔になった。

「17年前?」
「うん」
「さよって、もしかして、ぼくの親世代?」
「そうだよ」

ベアが首をかしげると、肩まで伸びた黒髪が揺れる。

「ベアが、これくらいだったときだよ」

右手をぐーーっと下げて膝くらいを指した。

「・・・だよね」

ベアが3歳だった頃を想像してみる。
東京育ちの彼と、長崎の離島で育った私。
世代も場所も超えて、重ならなかった線が交差する場所がピースボートだ。

11時、自主企画申請へ。
迷ったけど「自己肯定感を上げる&心の免疫力アップワーク」日/英 やってみることにした。
スクリプトをつくってみよう。
間に合うかな。できるかな。
やってもやらなくても死なないよ? 

ならやる。



12時、Aのセッションへ。

「しずかな落ち着いた場所がいい」

彼女のリクエストを受けて、ひとけのない12階サウナエリアのソファで話した。

スマホのボイスメモにセッション内容を録音しながら、大きな目を見開いて、真剣な表情のA。
Aの話しかたはすこし特徴がある。
相手の気持ちを読み取ろうとアンテナを張り、相手を不用意に傷つけまいと心を砕き、全方位にクッション言葉を敷きつめるような話し方だ。
何があったのだろう。

人が傷つく姿に敏感な人は、相手以上に傷ついてきた過去がある。
目の前の誰かが悲しんだり傷つく姿に、共感の痛みを引き受けてしまう優しい人が多い。
優しいだけじゃない、他人の痛みも背負って歩ける強い人でもある。

Aと話していたら1時間経っていた。

午後からココちゃんとのコラボ企画が2つ。
タイトなスケジュール。


18:00ー19:00  量子力学が好きな人 [イベントルーム2]
19:15ー19:45  藤井風好きな人 [エアロビクススタジオ]

企画タイトルの変更をココちゃんに頼むのを忘れていた。

量子力学の企画は30人を超える参加者が集まった。多い。
予想どおり60代から70代の男性7名ほど、物理学の話が聞けると思ったのに、といった面持ちで腕組みをしている。

「量子力学とタイトルつけちゃダメでしょう」

最前列のテーブルに座った60代後半の男性が、腕組みをほどいて人差し指を立てる。
まるで部下の資料を指摘するような硬い声に、空気がぴりつく。

引き寄せの法則とか、運とか、見えないものの力を量子力学の切り口で捉えるんですよね、と好意的な人、それは似非だと否定する人。
場にいる人たちの温度が揺れはじめる。

ココちゃんがその企画名で枠を確保したのは、量子力学「的」引き寄せの法則を扱った本をベースにしたからだった。
その意図どおり「引き寄せの法則」や「ザ・シークレット」などスピリチュアルに関心のある人と、対照的に物理学、アカデミックな量子力学の関心のみで、スピリチュアルに否定的な人が混在していた。

「企画タイトルで誤解させてしまいました。
思っていた内容と違うと思った方は、帰られて大丈夫です」

3人ほど帰り、室内にはなお30人近くの人が残った。

「似非科学と物理を一緒にするなどナンセンス」
「粒子と波という二面性と、想念と現実化という点の関連性」

ディベートの否定と正論合戦の空気にココちゃんが気圧され、へたりと椅子に座った。

あ、これ愛じゃない。
相手を説得しようとする私の内側に、恐れの感情があるのに気づいた。
試されている。

世界には、「愛」か「恐れ」の二つしかないという。

誰かの否定は「なぜわからないんだ!」という怒り。
怒りの下には恐れがある。

では、恐れとは何か。
恐れの源は「私をわかってほしい」という、愛を求める声だ。

言い換えるなら世界は、「愛の声」か「愛を求める声」の二つしかない。


目線を上げて静かに呼吸した。
イベントルーム全体を高いエネルギーで包むイメージを描く。
視界がふわっと金色を帯びた。

さっき指摘した男性は帰らないでそのまま座っている。それがなぜか嬉しかった。

「私とココちゃんは、みなさんのような物理や量子力学の専門知識はありません。
企画名で誤解させてしまいました。
私たちがお伝えしたかったのは、夢を実現するかどうかは「意識」の状態によって決まるということです。
量子力学的なアプローチで幸せになる考え方を学び、実践して「これはすごいね、伝えたいね」と二人で話してこの企画が決まりました。
それをお話しさせてください」

これまでに学んだ概念と、実際に体験したことをレクチャーする。
行動心理学の講座や社員研修、グループコーチングをやった昔を思い出しながら、今の私に伝えられることをフル回転させていた。
目の前にいる人たちにどうやって価値を持ってかえってもらえるだろう。

信念に、意図をのせた行動が望ましい未来を創りだすこと。
意識を向けたエネルギー量が大きいほど実現化しやすくなること。

うなずいている方、腕組みをしたままの方、メモを取っている方。さまざま。
一方的なレクチャーよりもっとわかりやすいだろうな、そう思って参加者の方にシェアを促した。

「ここまでで、何か思ったことや皆さんの体験談を、どなたかシェアしていただけませんか?」

5名ほどの方が、思考が現実化したそれぞれの体験談や考えを話してくれた。

「前より感謝するようになると、感謝したくなる現象がどんどん起きますね」

と、医師のO岡さんが「感謝」について日々の習慣やエピソードを話してくれた。

「ありがとうございます。感謝できることを探し、意識すると、さらに感謝したくなる出来事が増えるということですね」


私も、粒子と波の話をした。
知って間もない拙い知識でも伝えてみようと思った。
「見ると意図すると、世界が創られる」
何を観察するかで現象が変化する話。

すると、O岡さんの奥さんが、「二重スリットの実験のことよね?」と、私の説明を補足してフォロー説明してくれた。
ありがたかった。


OKさんのシェアも素晴らしかった。

「俺はいつも運がいいと思って生きてるよ。そう思って行動してるから実際にそうなってる。
『引き寄せ』ってそういうことじゃないの?」

カラッと笑って話し、他のテーブルの参加者がなるほど、とうなずく。
数人の方から個人的な引き寄せ体験や、思いが実現化したシェアがあり、話しおわると拍手が広がる。
拍手のたびに、すこしずつやわらかな空間に変容していった。


企画の最後に、予定していた予祝(よしゅく)ワークをした。

帰国したら難関資格試験を受けると言うレオに「合格おめでとう!」
いつか世界の国ぜんぶ行きたいと言うTに「世界の国ぜんぶ行けておめでとう!」
いつかアメリカに暮らしたいと言うココちゃんに「サンタモニカ暮らしおめでとう!」
参加者全員で拍手を送り合った。
手を叩きながらレオが「たーのしー!」と笑った。


『思考が現実化する』ならば、何を考える?
何を意図する?
潜在意識の車に顕在意識のドライバーを乗せて、物理的・人的・言語的環境を選んで進む。
この世界が茶番なら、幸せな茶番を選びたい。
誰もが耳疑うようなデカい夢でも、信じ切った人によっちゃ自伝になる。

企画を終え、次は「藤井風好きな人」主催でエアロビクススタジオへココちゃんと向かう。

3名の参加。
OZさん、Nちゃん、Jさん。

ただ好きなアーティストに浸るだけで、決まった進行もない。
「ねばべき」がない時間。

それぞれが好きな曲を一曲ずつリクエストし、皆で聴きながら広いスタジオでゆらゆらたゆたう。

Jさんは『罪の香り』、Nちゃんは『青春病』、OZさんは『grace』、ココちゃんは『何なんw』、私は『旅路』をリクエスト。

音楽に合わせて自由に体を揺らしたり、フロアに転がったり、目を閉じたり。
さっきとはうってかわって、ゆったりと愛に満ちた空間だった。

企画を2つ終えて部屋に戻る。

原稿の続きに取りかかり、夜9時、アイスランド編(1)が完成した。



急いで、居酒屋「波へい」へ。
バンド仲間のOとピースボートスタッフHちゃんと飲み。
波へいで飲んだことない私に、Oが居酒屋デビューのきっかけをくれた。


「楽しむ」を遠慮しそうになる私は、誰の目を気にしているのだろう。過去の記憶。
船であまりお酒を飲まない習慣が、波へいに行かなかった理由ではない。
そうではなく、妙な臆病心が足を止めていたのだ。

人生を楽しむと誰に叱られると思っていたんだろうな。


たこ焼き、焼き鳥、枝豆、グラスワイン。
夜風は太平洋のぬるい潮風。
付き合ってくれた二人の笑顔。

居酒屋デビューにうれしくなって、追加のおつまみを取りに行こうとして、レストランの入り口でつんのめってびったん!と転んだ。
肋骨が軋み、折っていたのを思い出す。毎日いろいろありすぎて忘れてる。

二人が「なんかすごい音したけど大丈夫?」と様子を見にきた。
ちょっと浮かれました。






  いつの間にか この日さえも懐かしんで
  全てを笑うだろう 全てを愛すだろう
  
  藤井風 『旅路』














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