【洋上日記】2023年7月7日 船旅93日目 勇敢になるチャンス

気温 22℃ 海水温 21℃
横浜から 26924マイル
時差調整あり マイナス1時間
ホノルルに向かって航海中


帰国まで残り15日



5時に起きて、ノルウェー編(2)を書く。

昨日、ITに詳しいピースボートスタッフYさんの力を借りて、ついにパソコン(MacBookAir)から船のネットにつなぐことに成功した。

それまでは、パソコンで作成した原稿をエアドロップでスマホに共有し、スマホからネットにつないで、容量を軽くしたテキストデータのみを送信する方法で日本のスタッフに原稿を送っていた。
このまだるっこしい工数が減って、スマホを経由せずによくなった。

とはいえ画像や動画はデータ量が大きいため、これまで同様に、寄港地からWi-Fiを介してクラウドにアップするやり方は続く。
最後の寄港地ハワイでも、その作業をやる予定だ。

船のネット速度が遅いのは変わらないが、ステップが減っただけでありがたい。

あと18日で下船するというタイミングで。
残す寄港地あと一つというタイミングで。

(もっとはやく解決できていたら・・・)

んにゃ

もとい、

(船旅92日目で、また一つ改善できた)
(よし。いい感じになってきた)

そう考える。
自己否定をくるんとひっくり返す。
こじつけだろうがいいのだ。
今は腹の底からそう思えなくてもいいのだ。
自己否定のプロは自己肯定のプロにもなれるはず。

赤ちゃんが寝返りをうち、泣く。
つかまり立ちをし、尻もちをつく。
一歩ふみだして、転ぶ。

うまくいかないときも自分の成長を疑わない赤ちゃんを先生に、私も自分の成長を信じてみる。
「信じる」プロセスは獲得するものではなく、思い出すものなのかもしれない。
私たちがかつて、やってきたこと。

成長を測るとき、目盛りの大きなモノサシで測ろうとすると、0か1しか見えなくなる。
0と1の間に、たくさんの成長がある。
0.1、0.11、0.12・・・

もっと細かく、もっとていねいに。
もっと小さく、もっとささやかに。

モノサシの目盛りをちいさく刻んで、ちいさな成長を、着実に測っていく。
すこしずつ進み、おどろくほど遠くへいくことができる。




売店に行き、インターネットカードを2枚追加で購入した。
200分で4,200円。
事務局とのやりとり、返信、WEBサイト上でのチェック、修正依頼など、ひとつひとつの作業に通信速度の制限が時間をくう。
送信中のじりじりとした時間も利用時間がカウントダウンされて、作業の進み具合におかまいなくカード残量が減っていく。

コントロールできないことにイライラする時間がもったいない。

私がコントロールできることはなんだ。
書くこと。

ノルウェー編(2)の続きに取りかかる。

トロムソの、名もなき小さな公園でメイビーと一緒に遊んだこと。
古い静かなカフェで、チーズケーキを食べたこと。
リュックにMacBookAirを背負って半日歩き、はいったカフェにWi-Fiがなくて、どこか安心したこと。

6時半、水筒を手に14階レストランへ。
水を補充して人がまばらなフロアを見渡すと、朝ごはんを食べているウノさんがいた。

「おはよ」
「おはようございます」
「今、どのへん?」

今トロムソにいます、と言うと、ウノさんが笑った。

「ちゃんと食べてんの?」
「食べてます」
「なら、ええわ」

ウノさんがほほえんだ。

ウノさんと別れてレストラン出口に向かう途中、別のテーブルで朝ごはん中のナッキーと目が合って、手を振る。

「おはよー」
「ナッキーおはようございます」
「さよちゃんの記事、読んだよ。ファンになった!」

びっくりした。

「読んでもらえてうれしいです。ありがとうナッキー」
「また送ってね。今どこの記事書いてんの?」
「トロムソです」
「えー、1ヶ月前じゃん! わはははは」

前に
「さよちゃんの記事を送ってくれてもさぁ、つまんなかったら読まないよー俺」
容赦なく言って笑っていたナッキーが、今も笑っている。

ありがとう。

部屋に戻って、ノルウェー編(2)を書きあげた。

校正や画像指示の作業はあとまわしにして、ノルウェー編(3)の原稿に取りかかる。

あの日、予定どおり1日の滞在だったら、アムンゼン像には出会えなかった。


北欧と北極圏の日々を温かく包んでくれたダウンジャケットも、手に入らなかった。


カフェで地元の人と交流することもなかった。


船が停電しトロムソに予定外に停泊した、翌日の出来事。
予定外ではない、完璧なタイミングだったと後で知るのだ。







12時、ガガンとお昼を一緒に食べる。
ガガンがもぐもぐしながら私に訊いた。

「ハワイ3日間はどうするの? 何か予定はある?」
「ノープランです」

ガガンもノープランだったが、数日前に台湾人グループに誘われて、初日だけレンタカーを借りてドライブすることになったらしい。

「あまり決めないでブラブラするよ。初めてのハワイだから楽しみだ」
「いいですね」
「サヨも一緒に来る?」
「レンタカーで? 面白そう」
「レンタカーを大きい車に変更できないか訊いてみるよ。明日の朝また話せるかな?」
「はい、ありがとうございます」

明日の朝7時、朝ごはんを食べながら計画の続きを話すことになった。


13時にピースボートセンター前へ行く。
こんがり日焼けした撮影班のスタッフが「こんにちは!」と笑顔で迎え入れてくれた。
一緒に7階デッキに出る。潮風を強く感じる。

船旅は「移動しながら暮らす」特殊な日常だ。
日の出と日の入の時刻は、船が向かう方向によって変わっていく。
船内テレビ『クルなび!』には、毎日の日の出と日の入の時刻を伝えるミニコーナーがあり、毎日日替わりでいろんな人が担当する。
「お天気キャスター」ならぬ「日の出日の入キャスター」だ。
ちなみに太陽が沈まなかった白夜の間は「明日の日の出と日の入は、ありません!」と放送されていた。

最初はスタッフ中心で出演していたが、一般乗客も参加できると知ってキャスターに申し込んでいた。

「日の出 日の入キャスター」の収録は準備も含め10分で終了。

伝えたいメッセージを笑って伝えた。
緊張して汗だらだら。心臓バクバクが止まらなかった。
さっき食べたお昼を10分で消化した気がした。

午後、バンドメンバーと音合わせ。

7月のバンドフェスに向けて初めての曲だ。
6月とは違うメンバー編成、違う曲。

本番まで残り一週間を切っている。

一曲通したあと、バンドリーダーのやすが「いい感じ。練習重ねよう」と言った。
互いにできていないパートがあるし、課題はいくらでもある。
それはバンドメンバー各々の表情を見ればわかる。
だからこそ、不安を煽るよりメンバー全体の気を整えるリーダーの声が頼もしい。

私のドラムは出来具合3割。赤点ギリギリ。自主練しよ。



練習終わりに、バンド仲間のOが私を呼び止めた。
私が書いた記事の印刷物を2日前にOへ渡していたのだが、もう読み終えたらしい。


モロッコ、トルコ、ジャマイカ、エリトリア、インド。
それは、私がライターになるきっかけになった、17年前に書いた記事だ。
船の上で発行するたった一冊の雑誌「月刊MONMON」に掲載されていた。

「読むの早いね」
「うん、すぐに読んだ。よかった」
「ありがとう」
「言葉が音楽みたいだった」

ライターでも、何者でもない。
無職だった私の記事を読んだ感想をそんなふうに聞かせてもらえてありがたい。

Oが言った。

ジャマイカの記事で『信じる』がテーマだったでしょ。
こないだセッションでさよに言われた言葉と重なった。
やっぱり俺、あのとき仲間にそれを伝えられなかったこと悔しかったんだな、って」
「今でもそう思ってるんだ」
「うん」
「愛だね」
「愛だね」

リードギターの練習に部屋にこもるよとOは言って、階段で別れた。
別れ際にふと思いついて、Oに声をかけた。

「波へいに行ってみたいんだけど、こんど付き合ってくれないかな」

洋上居酒屋「波へい」にまだ行ったことがないと言うと「おー、マジで」と笑うO。

「いいよ、明日はどう?」

勇気を出して頼んでよかった。
明日は波へいデビューだ。
「お酒が飲みたい欲」よりも「居酒屋で誰かと語り合いたい欲」そっち。




夜7時半にノルウェー編(3)完成。
画像などの挿入指示や校正をして、テキストを2本まとめて送る。

夕食を食べに14階に上がると、再びナッキーと会った。
「ナッキー」手を振って近づく。
食後のぶどうを美味しそうに食べていた。

「さよちゃん、レッドカーペットのイベント行った?」
「なんですかそれ?」
「そっくりさんが集まって仮装してレッドカーペット歩くの。
俺カーネルサンダースになっちゃった!」

「どゆことですか?」
「そっくりさんイベントに向けてMちゃんに声かけられてさ、『カーネルサンダースになってください!』って。
それでなったの、カーネルサンダース」
「スカウトされたんですね」

写真を見せてもらう。
思った以上にカーネルサンダースで大笑いした。
Mちゃんの観察眼が素晴らしい。
(あとで聞いたが、メイビーもMちゃんにスカウトされ宮本武蔵になったそうだ)

ナッキーに見せてもらった写真、隣にマリリンモンローがいる。
ゴージャスなペアだな!



「クオリティたっか!」
「面白かったよー。さよちゃん来なかったの?」
「原稿書いてました。今日、1本書けました」

勇気を出して言ってみる。

「いいね! また記事送ってね」

ナッキーがにっこり笑った。
その瞬間に手にしたぶどうが一粒つるっと飛んでいって笑った。
よく飛ぶな

ナッキーは今日ジャパングレイスのカウンターで、121回クルーズに早割で申し込みしたそうだ。

「ピースボート楽しいね。俺、気に入っちゃった」

落ちたぶどうを拾って、嬉しそうに報告してくれた。



夜9時、いつものイベントルームで書く瞑想ワークショップを開催した。



瞑想のあとのミニレクチャーは、鏡の法則について。

「誰かの美点を見つけたなら、それはあなたの中にあります」

講座を終えると、マリアからの拍手が場全体にさざなみのように広がった。

ワークショップ初参加のCCのアラさんがやってきて
「さよさん、では、私にはたくさんいいところがあるんですね」
と、流暢な日本語で言った。

「そのとおりです」と伝えると、
「ふふふ」
アラさんがにっこり笑った。

ワークショップのあとに、MAの鑑定セッション。

「鳥肌が立った」と、MAが浴衣から出た両腕をさすった。
船を下りた後はコンサルの仕事に復職するMA。
みなそれぞれの経緯で船に乗り、彼女も人生の転機のさなかにいた。

「ありがとう。なんかワクワクしてきたよ。やっぱり乗ってよかったんだなー」
2週間後には日本の地を踏む自分を想像しているのだろうか。
夜空を見上げて大きく伸びをした。

今日の予定を全部終えると、日付が変わる前だった。


6階の廊下に設えたモニター画面の前を通りがかると、今日収録したばかりの『クルなび!』が流れていた。
緊張した笑顔でマイクを握る私がいる。

船内テレビに出演する勇気。
居酒屋に誰かを誘う勇気。
私の記事を読みませんかと、声をかける勇気。
目上の人に親しみをこめたタメ口をきく勇気。
ささいな成長を自己承認する勇気。

勇気の出番は、数えるほど増えていく。
勇敢になるチャンスはそんなふうに増やせる。

部屋に戻り、時計の長針を1時間巻き戻した。
午前1時が0時になった。


明日が雨でも晴れでも曇りでも、いい日になりますように。


2024年版【お試し】
  鑑定セッション(25分)のお知らせ

あなたが気づいていない『強みや魅力』『才能のタネ』『幸運のありか』『行動するポイント』etc
自分の資質を知り、思考とリンクさせ行動に変えていくセッション【お試し版】です。

2024年あなたの運の流れを知り、人生やビジネスに「本来の自分らしさ」を取り入れたい人へ。
詳しくは下のボタンをクリックしてください。
(セッションはオンラインで行います)

…………………………

感想やメッセージもお待ちしています!
しんがき佐世への質問・メッセージはこちら▶︎