【洋上日記】2023年7月5日 船旅90日目「もっと船を楽しんだらいいのに」



気温 23℃ 海水温 22℃
ホノルルに向かって航海中

3時半に目が覚める。ベッドでごーろごろ。


4時に起きる。
机の上は原稿やりかけ状態、資料とノートを広げたままだった。
まずは昨日の記録の続きをノートに書き始める。
手書きの汚い字で、記憶をつかまえようとペンを走らせる。
記憶が消える前に、感情がうすれる前に、とにかく書いておく。
ノートに書いた手書きが、テキストになり、記事に現れるのは手書きメモの30%くらい。

どこにどうつながるかわからない出来事の点と、点と、点。
誰にどう伝わるかわからない感情の、点と、点と、点。
わからないから、とにかく書いておく。

15本持ってきたボールペンの黒インクのカートリッジは残り1本。
足りるかな。
足りなくなったら隣の色で書けばいい。青と緑と赤。いくらでもある。

5時から2時間半書いたところで、ふと、スタッフのHちゃんに手紙を書きたくなった。
手紙といっても、彼女のことを思い巡らせて、ぽっとうかんだ曲の歌詞を書き写したものだ。
昔から好きな歌詞や、本の一節に出合うと、写経みたいに書き写していた。
句読点は書き手にとっての呼吸なので、句読点も正確に、一言一句書きとる。
日本語だけでなく、英語で書かれた文章も。

好きな果物の香りや果汁や歯ごたえを味わうのとおんなじだ。
好きな言葉を手書きすることで、記し手の香りや脳内汁や文字にならなかった行間を食べている。
何十年も食べ続けて、まだ食べ飽きない。

朝9時半に乗客全員の避難訓練があった。
船室によってそれぞれ指定されたマスターステーションに移動して、チェックインして解散。
救命ベストの出番はなく、15分ほどで訓練は終わった。


部屋に戻って、原稿の続きに取りかかる。
原稿の現在地は地中海をすぎた5月末あたりで、仕事と仕事以外のバランスを崩してもやもやしていた当時の状態が文章にそのまま現れる。

三歩進んで五歩下がる。
書いて消してを繰り返す。
書くほどに、伝えたいことから遠ざかる気がする。
5000文字書いて半分以上を削る。
それを繰り返している。

おもしろくなかったらどうしよう。
つまらなかったらどうしよう。
誰かを傷つけてしまったらどうしよう。
私の書いた文章に興味ある人いるのか。
読むだけ時間のムダじゃないか。
忙しい相手の時間を奪ってるんじゃないか。

愛とは反対の、怖れの声が聞こえる。

意味を持たない見えない点と点がつながろうとしている最中と信じる(信じたい)。
生産的カオス。ここを耐える。

1時間半後、集中力切れてベッドでふて寝。



午後、14階レストランでコーヒーと小さいケーキを食べる。
部屋に戻ろうとして、とーみんと階段でばったり会った。
19時半からのとーみん自主企画に参加することにした。
これまで自分のことをあまり語らなかったとーみんが、自身のこれまでの活動をとおして考えてきたことを話す異色の内容らしい。
面白そう。
どんな価値観や世界観が、とーみんを世界各地へ導いているのだろう。

とーみんと別れたあと、部屋に戻りかけるのをやめて、また、14階に上がった。
14階後方デッキの丸ソファへ。
あおむけに寝転がって、イヤホンを耳に突っ込んだ。



部屋に戻り3時間半、イギリス編を書きあげた。

とーみんの自主企画に間に合った。めちゃくちゃ面白かった。
参加してよかった。

感動して講座終わりに感想を伝えに行った。
「ふふ、よかった」と、とーみんはPCを片付けながら、ニコニコ笑っていた。



明日も自主企画だって。
ほぼ毎日じゃないか。すごいな。

船ではズンバやダンスなど、ほぼ毎日自主企画を開催している乗客も少なくない。
人の役に立てる喜びと自己実現を兼ねているからか、みなさん共通して元気でパワフルだ。

参加型の船旅だから、人と人がつながった濃い思い出が育って、リピーターも多くなるのだろう。




夜、イギリス編の原稿を、画像と動画の指示メモを添えて日本のスタッフに送った。
なぜかロンドンで撮った2日目の画像と動画の7割が消えていた。
スマホにもクラウドにも見つからなかったが、ないもんはない。
あるもんで創る。

1ヶ月以上かけて、ギリシャイタリアスペインフランスイギリス、ヨーロッパの寄港地ラッシュを抜けた。
寄港地ラッシュは原稿ラッシュ。
とても長かったほんの少しの間に、船は最後の寄港地ホノルルに向かっている。


私が書く寄港地の文章は、ガイドブックみたいに洗練された情報ではない。
多くの人の関心を惹かなそうな場所に行きがちで、なんの役にも立たなそうだ。


「原稿が書けないぃぃー」と頭をかかえて笑う私に、友人知人から優しい言葉をいくつももらった。

「もっと船を楽しんだらいいのに」
「もっとやりたいことやったらいいのに」



イベントや講座に参加している人たちがキラキラ充実して見えた。
それで、原稿を書いてイベントも参加してみたら睡眠時間がダダ減りした。
途中から、ピンとこないイベントに無理に参加するのをやめた。

旅の王道から外れても私のルートの真ん中で、体験したことを言葉にする。
2000人が一緒に動く大きな船で、私が感じたことを言葉にあらわせるのは一人だけ。

やりたいことをやっている、と思った。
しんどいけど楽しいよ。





音と光の平和ナイトというイベントを観たあと、21時半、Cと一緒にごはん。
映画の話。愛の話。
人に優しくしたいというCが、他者からの優しさを、遠慮せずに受け取る練習を始めたこと。
愛を与えたいと思うなら、愛を受け取る練習も大切だから。
彼女の勇気の話。

23時半、また14階後方デッキに行って、また丸ソファであおむけになった。
昼間は青空。今は夜空。
海鳥が舞う。風が冷たい。

寝転がったまま耳にイヤホンを指す。






そのポスターを私が初めて見つけたのは、近所のスーパーに買い物に行く途中だった。


手術の後遺症で利き手が使えず、しかも無職で、先の見通しが立たずぼんやりしていた頃だ。
ちいさな本屋の壁に貼られたポスターと目が合った。
『地球一周の船旅』と書かれていた。
へー。こんなのがあるんだ。


  情熱の羅針盤は 君の胸にありますか
  その針 震えて クルッと回って未来を指す



今聴いている曲が、イヤホンから流れていた。

17年前の春のことだ




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