【洋上日記】2023年6月30日 船旅85日目 中途半端でも完成させたほうがいい
気温 30℃ 海水温 31 ℃
横浜から24794マイル
メキシコ マンサニージョに向かって航海中
5時過ぎに目が覚める。
ベッドの上でストレッチしながら、身体の点検と体調チェック。
ホルモン乱高下のさなかで下腹部がじりじり痛い。
メンタルはOK。
両腕をさすって肌の湿度をたしかめる。
グアテマラを離れて2日、まだ肌がふかふか、すべすべしている。
月夜にペテンイツァ湖に浮かんだ湖水浴・月光浴効果かな。
時間どおり、6時半にノックの音がした。
顔見知りになったが雑談はかわさないインドネシア人のクルーから、ルームサービスのトレイを受け取る。
ありがとう。
顔を洗って部屋着のまま、牛乳を入れたコーヒー、パンといちごジャムを食べる。
ヨーグルトはあとで食べよう、備えつけの小さい冷蔵庫に入れる。
そのまま部屋を出ず、途中だったスペイン編の続きにとりかかる。
9時半に書きあげた。
え、できたの?
じゃあ、次のフランス編も、たぶん、きっと書ける。
しばらく書けずに一人ジタバタしていたが、ひとつまた進んだのか。よし。
カサカサにしなびた自分に自信を取り戻すには、ちいさく行動した自分を何度でも発見することだ。
行動は地味でいい、自己承認する回数が大事。
他者からの承認をほしがるほど苦しくなる。
階段を一段飛ばしで14階にあがり、オープンデッキで今日の天気をたしかめた。
朝の10時前で、すでに気温が高い。
14階から12階のプールデッキを見下ろすと、まだ誰もいない。
夕方には人でいっぱいになる予定。そこに私もいる。
蒸し暑い外気を吸ってから、14階レストランでグレープフルーツとオレンジどっさりと、味噌汁。
部屋に戻って、シャワー室の鏡の前に立つ。
アイラインを太く。眉毛きりり。赤リップは2周かさねる。
いつもより3割増し濃いメイクだ。
伸びた髪はハーフアップにしてワックスで固めた。
ミスチル好き、スピッツ好き、バンプ好き、アジカン好き、ラッド好き。
コールドプレイ好き、ボンジョヴィ好き、レッチリ好き。
バンドが好きだ。
まさか観る側じゃなく演る側になるとは。
バンドフェスのリハーサルは午後2時から。
本番は4時から。
まだ時間はある。
いつもほとんど人がいない穴場11階後方デッキで自主練。
海鳥が広やかに飛んでいる。
お昼を14階レストランで食べ、部屋に戻って少し眠った。
起きたら椅子をベッド脇に移動して、ベッドの隅をぱてぱて叩いて練習する。
夕方、12階プールデッキでバンドフェスが開催された。
朝とうってかわって人だかりができていた。
文章書くとき以外で夢中になったのはどれくらいぶりだろう。
曲の最後に右ドラムスティックの先端が折れて、空を飛んでった。
あっという間の数分だった。
メイクも髪も汗でぐちゃぐちゃになった。
楽しかった!
演奏を終えたOが「青春してるねー!」と全員を見渡して笑った。
歌い切ったSが「楽しかったー!」と両手を広げた。
・
・
・
もっと練習してから、いつか。
心の準備ができてから、いつか。
ミスせず出来るようになったら、いつか。
恥ずかしくないレベルに達してから、いつか。
そうやって「理想のその日」は後ずさり、遠のいていくのだろうか。
違う、後ずさるのは自分のほうだ。
私のドラムの腕は、カンペキにはほど遠い。
基礎もなってない中途半端者だと知っている。
へたっぴドラマーの自覚をもって
(でも、やってみるんだよ)
人前で演奏する体験を自分にあげた。
『いつか』の向こうにぼんやり霞む実体のない『未完のカンペキ』より、ずっといい。
そうでなければ、きっと私たちはなにひとつ終わらせることができない。
中途半端でも完成させたほうがいい。
「最後までやりきった」体験を手に入れられる。
谷やん、バンドフェスを開催してくれてありがとう。
「初心者歓迎!」してくれてありがとう。
あと、年下だらけのバンドフェスメンバーに場違い感満載でビビりながら「えっと、参加したいです」とイベントルームのドアを開けた3週間前の私もありがとう。
買い足したインターネットカードでネットに繋いだら、夫からラインが届いていた。
「イタリア編おもしろかったよ」
「ぼくの勘違いかもだけど、トランペットじゃなくてサックスでは?」
マ ジ ですか
その ふたつの楽器は
どこがどう違うでしたか
違いを知らなくてもバンドフェスでドラムたたいて楽しかった中途半端者。
あわてて日本の事務局スタッフに、文字修正依頼のメッセージを送る。
「トランペット → サックス に修正願います!」
演奏後スティックの欠片を拾いに行ってるね・・・
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