【洋上日記】2023年6月1日 船旅56日目 ノー・サンライズ・ノー・サンセット

気温5℃ 海水温8℃
横浜港から 15857 マイル

数日前に地球を半周した。船旅は残り50日あまり。

できたことはいくつもある。
そう書くことで、自分自身に教える。
自信をもとう。
そう書くことで、自分自身を励ます。

「不安」と「愛」
人は二つの動機のどちらかで動く。
不安から動くんじゃなく、愛から動く。
私はそれを何度も忘れる。
何度も思い出す。

昨日、オンダールスネスの山頂で、経営を学んでいる師匠から届いたメッセージを受信した。
私の記事を読んでいること。私のコミュ能力がすごい、とのこと。
読んでくれていたんだ。
思いがけないことだった。うれしくなった。
ありがとうございます。

私のコミュニケーション能力は、最初から備わっていたものではない。
後付けで搭載した、アプリみたいなものだ。

なので、意識して、意図して、起動している。
アプリの使い方を練習して、実践して、くり返して習得してきた。

もともとはコミュニケーションが苦手で、何を話したらいいのかわからない。
いじめられっ子でもあったが、それ以上に、からかわれっ子だった。

どうしたら人と対話できるのか、考えて必死にひねり出した話題で相手を苦笑いさせたり、居心地悪くさせてきた。
いつまでたっても友だちができず、学校卒業と同時にどのクラスメイトにも連絡しなかった。

誰かと一緒にいると自分が消えていくようで、作った友だち関係も結局は私のほうから消していった。
温度が冷めて化けの皮がはがれるまでの、使い捨てカイロみたいな関係しか作れなかった。

人と話すのが好きだと思えるようになったのは、30代になってからだ。
今も人と話すのは好きで、それ以上に一人で過ごすほうが好きだ。

「自分が好きだ」と思える分量と、「人が好きだ」と思える分量は、釣り合いが取れるものだと思う。

人が好きだと思える自分になってよかった。

「コミュ能力がすごい」と、ときどき言われる。
船上でも言われるし、陸上でも言われる。
実はけっこう緊張している。

旅先でも、船内でも、コミュ能力アプリを立ち上げて、笑顔とジェスチャーと言葉を駆使して意図を果たしていく。
緊張して汗をよくかく。
誰かと会ったあとにこっそり、ひとり反省会もよく開いている。
自分の力が小さすぎると感じることはたくさんある。
それでもやっている。やっていくうちに、少しずつ自信がつく。

たまに褒められると、うれしくなって、もっと伝えたい、もっと発信したいと思う。

昨日、地上708mのロープウェー山頂から、旅に出て初めて両親にライン通話した。
元気そうでよかった。
叔母にもライン通話。
私の記事を読んでいるらしく「バリ編」の10ドルのくだりで涙が止まらなかったそうだ。
「勇気をもらった、ありがとう」とお礼を言われた。
こちらこそ、ありがとうございます。

「元気です」と伝えながら、叔母や両親には、私が肋骨ヒビってることを言わなかった。
いずれこの洋上日記を読んで知るのだろうな・・・元気です。

6月1日木曜日。
ノルウェーのトロムソという街に向かってさらに北上を続けている。
今日は波が高め。すこし揺れている。
「階段では手すりをお使いください」と船内放送が流れる。
多くの人が上手にバランスをとりながら、手すりを使わずに歩いている。
船旅56日目、人はたいていのことに慣れるんだ。

エジプトの記事を3本、やっと仕上げる。
文章を修正し、画像と動画の挿入指示を入れ、目視で校正チェックする。
記事の作成時間はトータルで15時間くらいだが、着手から数えると3週間近くかかった。
その分、次の寄港地がいくつも溜まっている。

白夜がすごい。
太陽が沈みそうで沈まず、海の上に浮かんだまま、雲間から出たり隠れたり。
明るいままなので今が真夜中なのを忘れる。
夕方みたいな深夜2時。

エジプトの記事を仕上げて、そのまま洋上日記5月13日~5月30日まで10本を書いた。
明日トロムソについたら、原稿13本をまとめて送る予定。
北欧はネット速度が速めなので、うまくいくといい。

14階レストランにはとっくに誰もいない。
気づけば空気が冷えている。さぶい。帰る。

今日は日の出も、日の入りも、ない。
太陽は海のうえをすべるようにヨコ移動し、ずっと船を照らし続ける。

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