【洋上日記】2023年5月3日 船旅27日目 悩め!

横浜港から14816km
船は時速15.5ノット(時速28km)でインド洋を紅海へ向かって航海中

スリランカ編の原稿が進まず、一人でぐねぐね。

仕事を早く終わらせて船内のイベントに参加したい、人と話したい。
やりたいことと、やると決めたことと、やらなきゃいけないことが追いつかない。

昨夜、8階の本棚コーナーから借りた本『82年生まれ、キム・ジヨン』を夜更かしして読む。
他にも本を4冊借りる。
現実逃避です。
ベッドで本を読んでいたらいつの間にか寝ていた。

午前11時過ぎ、船室の電話がなる。

「ハロー。ゆきちゃんだよ」
「おはよう」
「どうしてるかなと思って」

腐ってます。

「やさぐれて、夜更かしして本読んでた。さっき起きた」
「なんでやさぐれとるん?」
「原稿が書けない。今日はまだ部屋から出てない、光合成してない」
「えー。明日から海賊対策でカンヅメなのに」
「そうだった」

ノートとパソコンを持って、外に出る。
晴れていて日差しが強い。

14階の海の見えるレストランでお昼を食べながら、原稿が進まないことをゆきちゃんに言うと、話を聞いてくれた。

「私らは、100%遊びで船に乗ってんけど、さよは半分仕事やからなぁ」

と、ゆきちゃん。

「悩め悩めー! はっはっは」

サワヤカにあおってくる。

「くっそー」
「私がデッキで雷に怖がってたら、さよめっちゃ笑うやろ」

ゆきちゃんは雷が大大大の苦手だ。

管理職で多くの部下の悩みごとを聞いてきた人生のベテランは、楽しそうに笑っている。
笑われると自分の悩みはたいしたことないな、と思えてくる。

ふと、ゆきちゃんが3回死にかけた話を思い出す。

阪神大震災で倒れた2つのタンスで生まれたわずかな空間に頭を守られて間一髪たすかったこと、
「今夜が峠です」と先生から家族に宣告された入院と手術のこと、
死ぬために買ったロープを手に、3歳と1歳の娘の首を締める一家心中の手前でふみとどまったこと。

デザートのメロンをもりもり食べる彼女は、説教くさいことは1ミリも言わない。

前にゆきちゃんの部屋で、二人で初の部屋飲みをしたとき、ゆきちゃんが語ってくれた昔の話を、私がこのタイミングで思い出しただけ。

「自由に書いたらいいんよ」

と、ゆきちゃん。

何度も死にぎわから戻ってきた人が言う ”自由”って響く。

12時からサルサのレッスンに向かう彼女は「そろそろ行くわ」立ち上がり
「悩め!!」と笑って、さっそうと去っていった。

ありがとう。

今夜20時半からある星空観測のイベントに、一緒に行くことにした。

一人でもしょっちゅう星空を眺めに行く。
それとは別に、こういうイベントの日は、特別にピースボート企画で船の強い常夜灯を15分ほど消してデッキを真っ暗にしてくれるので、星がよく見える。
晴れたらいいな。

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