【洋上日記】2023年5月1日 船旅25日目 海賊に遭ったら「コード・ジャック」

気温30℃ 海水温31℃
横浜港から7527マイル、インド洋

朝、隣の部屋の女性がルームサービスを受け取る声が聞こえた。

少し気になることがあったので、私も合わせてドアを開けた。
隣人は60代くらいの女性で、ビニール手袋をつけマスク姿のインドネシア人のクルーから、トレイに載った朝食を受け取っているところだった。

ここ数日、ルームサービス係が隣の部屋に何度も食事を運んでいるので、もしかしたら、と思っていた。

最近、コロナが船で蔓延しているらしいと聞いていた。

その方と、少し話をした。
シンガポールを過ぎたあたりでコロナに発症し、ただいま部屋で隔離中だという。

症状はどうですか?と聞くと、喉の痛みと咳があるらしい。
お大事にしてください、と普通に会話する私。

(その話をあとでゆきちゃんにすると「ていうかさ、話したらダメじゃん」と、私と距離を取りながらツッコんだ)

ルームサービスで届く3食の食事を受け取るときだけドアを開け、クルーから食事を受け取り、あとはひたすら「自宅療養」。
隣も窓のない部屋だ。
部屋から一歩も出れないのはしんどいだろうな。

部屋のテレビ、BBCでスーダン内戦のニュースが連日報道されている。
4月下旬からBBCで取り上げられ始めて、もう10日以上になるだろうか。
停戦にかかわらず攻撃は止まらず、人々が飛行機や船で国外に逃れている。
ニュース映像で、大きな船の甲板から、大勢の人たちが手を振っている様子が流れている。
どこにも笑顔はなく、旅のためでない大きな船。
家に帰ってこれないかもしれない乗り物。

イギリスでは看護師がストを敢行している。
数日前もどこかの国でストが行われていた。
私はふやけた頭で平和と名前のついた船に乗っている。
命を確保できること、食べて寝て生活できること、悩むヒマがあること。
日本に生まれた時点ですでに分厚い恩恵のインフラを生きている。
私の日頃の行いがいいからではなく、スーダンの人の行いが悪いからでもない。

私がいまごちゃごちゃ悩めるのはヒマだからだ。
銃を向けられ隣人が殺されるさなかに悩むことはできない。

9時過ぎに船長から船内放送が流れた。
「コード・ジャック、コード・ジャック、コード・ジャック」
海賊が出たときの合図。

海賊警戒海域に入るにあたって、事前の避難訓練だ。

14階後方デッキで海を眺めていたところから、11階の自室に戻る。
海賊対策のシナリオは3つあるらしく、今回は「プランB」を行うとのこと。
乗客は部屋に戻り、かつ部屋の前のドア前に待機するよう求められ、その通りにする。

ほどなく避難訓練は終わった。
実際の海賊対策は、5月4日朝から7日朝まで行われる。
デッキなど屋外に出るのを禁じられる特別な期間。

「人生初」は私が思った以上にある。

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