【ギリシャ編】残り120時間

ギリシャのサントリーニ島に何度も訪れたという方とご縁があり、ツアーではなく自由行動で、連れだって動くことになった。

70代以上が8人。
初対面の方ばかり。

サントリーニ島と船との距離は、100~200メートルくらい?

港の水深が浅いので、離れたところに錨を下ろし、テンダーボート(通船)に乗って上陸した。

ロープウェーに乗って崖の上の町、フィラへ。
かなりの急斜面。

(ロープウェー内で聞こえてきた会話)

・・・歩けるかぁ?
階段、やだよ、ヒザが痛くなっちゃう
ロバ怖い怖い
ロバのふん踏んで滑った人がいる
年寄り、無理せんとロープウェー乗っとき
あっはっはっは・・・



ロープウェー、到着。

崖の上の町から、私たちの乗ってきた船が見える。
同じくらいの大きさの船がもう一隻。

映える写真スポット、あちらこちら。
白い壁、青い屋根。
白い壁に強い日差しが反射して、どこを向いてもまぶしい。

「ランチはここで。休みましょう」

グリークサラダ、ムサカというラザニア、チキングリル。

島の先端にあるもう一つの町、イアへ。

「タクシーで行きましょう」

タクシーに揺られて30分、イアの町へ。
こちらも白が日差しを反射、とことんまぶしい。
街全体がレフ板みたい。

「はい。ここが有名な写真スポットです」

めいめいにスマホを取り出し、写真撮影が始まる。

道は観光客向けのお店ばかり。
洋服、コスメ、アイスクリーム、アクセサリー。
映えるいろいろが売られている。
ギラギラ女子をキラキラさせてくれるいろいろ。

「あらー、ここからも船が見えるわね」

「疲れたのでカフェで休みましょう」

70代男性の提案に、ためらいながら声をあげた。

「私、休憩はいいので、ちょっと一人で歩いてきてもいいですか」

「タクシーの時間より早く戻ってくださいね」

なぜ私は許可を取ってるんだろう。

時間が気になって、何も目に入らない。
代わりに強い紫外線がビシバシ目に入る。

言われた通りタクシーに乗って帰る。

フィラの町で解散。
ここで、ロープウェーで帰る人、残って買い物する人に別れた。

ついに自由行動・・・だが、目がめっちゃ痛い。
目がしみる。

サングラスを買うも、すでに目の奥からズンズン響く頭痛が止まない。

目が開けていられないほどまぶしい。
キラキラは私には目の毒だ。

ロバに乗り、1.4kmの崖を下って帰ることにした。
ロバのうんちがなんだってんだ。洗えばいいじゃんか。

次の寄港地ではやっぱり一人で動こう。
「自由行動」を不自由にしたのは私の選択だ。

ロバよ、ふてくされて重たい私を運んでくれてありがとう。

ピレウスは、ギリシャ2つめの寄港地。
5月14日の夕方、半日滞在のサントリーニ港を出て、翌15日の朝には、ピレウス港へ。

寄港地との距離感が近い、ヨーロッパ寄港地ラッシュが始まった。

ピレウス港に着岸したのに、目の痛みと頭痛が朝から消えない。

昨日はロバに乗って崖を下り、テンダーボートで船に帰ってから、ベッドに直行した。

サントリーニ島でデータアップ作業をしなかったので、仕事もたまっている。

白い壁、白い道路。白い屋根。
乱反射する強い紫外線で目をやられてしまった。

狭い路地にびっしり並んだ映えるお店に、ひしめく観光客。
サントリーニ島での、体を横にしないと先に進めないほどの人混みにもぐったりしていた。

ぎゅうぎゅうになってまで映えんでいい。
映えスポットの行列に並ぶ姿は映えん。

目薬がバッグに入っているのを確かめ、Macをリュックに入れて、朝10時に出発する。

今日は観光地に行く気になれない。
なるべく観光客がいなさそうなところを少しだけ散歩して、Wi-Fiがつながるカフェでデータ送信して、帰ろう。

海沿いを歩いていくと、教会があった。
地元の人がぽつりぽつり中に入っていく。

10分ほど歩くとまた、別の教会が。

宗教についていくらか知っていれば、壁画など背景がわかるのだろうな。
今日の私にはわからない。

カフェを探しに再び歩く。
途中、交差点でバスが立ち往生して動けなくなっていた。
不法駐車らしき乗用車が進行をじゃまして角を曲がれないらしい。
運転席でスマホを操作しながら困り顔のバス運転手さん。

すこしお腹がすいたので、パン屋さんへ。

チーズパンを買って、外で食べる。
かりかり香ばしくておいしい。

さっきの場所に戻ると、まだバスは立ち往生中だった。
パトカーがやってきて、お互い運転席でなにごとか話していた。

なんだか今の私みたい。
行き詰まってる。

パンをかじりかじり歩いていくと、ピレウス駅へ。

あ、そうだ。水着を買わなきゃ。
アイスランドで露天温泉に行くんだった。
アイスランドまでまだ1ヶ月あるけど、きっとあっという間なんだろうな。

たまたま入ったお店が古着屋で、そこでワンピースの水着を買った。
古着の水着を買うのは初めてだが、けっこうしっかりした作り。
映えなくていいです。

再びカフェ探し兼、散歩。

実際は、カフェはすでにいくつも見つけていた。
なんとなくピンとこなくて素通りしている。

私の疲れが抜けてないから、思考も街もぼんやりに見える。

良さそうなカフェを見つけて、中に入った。

ギリシャ語、さっぱりわからない。
英語でパイの種類を訊くと、チーズの種類が違うそうだ。
どれにしようか・・・

「食べてみる?」

店員さんが試食に、と、陳列ケースからまるまる一個を取り出して私に渡したのでびっくりした。
ありがとう。

アイスコーヒーと店員さんの薦めたチーズパイ。
どれもおいしかった。
お腹いっぱいになると眠くなるので、これくらいがいい。

席について、作業開始。

Wi-Fi速度は、遅い。
シンガポールは速かったな・・・

いや、Wi-Fi速度だけが問題ではない。
送るデータ量がそもそも多すぎる。

最近、動画でも伝えたくて、テキストと画像に加えて、動画も送るようになった。
すると、たった1つのファイルアップに、数十分もかかってしまう。

エジプトでのデータは特に、画像や動画の数も長さも、群を抜いている。
動画のアップがちっとも進まない。

動画を1件送るのに、50分かかった。
ぐったり。

お腹がすいて、ごまパンとコーヒーを追加。

午後1時からカフェで作業を始めて、気づいたら、夜になってしまった。
エジプト初日は帰船リミットがなかったが、ピレウスは一日のみの寄港だ。
夜9時には帰らないと。

たくさん、伝えたいことがある。
写真でも、動画でも。

それが追いつかなくて、寄港地ラッシュの手前で、とうとうスタックしてしまった。

呆然としてしまう。

目の痛みと頭痛、進まないアップ作業。
たぶんきっとひどく疲れた顔をしているだろう。

なのにデータアップにかかる時間の目安、「残り120時間」だって。
これからヨーロッパの寄港地が立て続く。

それらの土地にいれる総時間、ぜんぶ合わせても足りないよ。

それに、次の、そのまた次の寄港地で写真や動画を撮れば、処理が追いつかないまま送るデータ量が増えていくのだ。

カフェが閉まるよ。
船が出ちゃうよ。

帰船リミットが近づいて、ピレウス終了。

きっと、もっと工夫の余地があるのだろう。
それか、何かを選んで、何かを捨てなければならないのかもしれない。

私は欲張りすぎなのかもしれない。

「船旅しながら仕事する」なんて、私には「遠いいつかの夢」だったのかな。

パソコンに詳しい人に頼りたい。甘えたい。
でも近くにいない。

はたから見れば、とても非効率なことをしているのだろうか。
今の私の実力では、非効率な課題を発見することができない。

もっと強くなりたい。
賢くなりたい。
頭よくなりたい。
仕事ができるようになりたい。

パソコンにも、データ処理にも詳しくない私が、ほとんど勢いで寄港地から原稿(テキスト&画像&動画)を送ると決めた。

「いつか」を叶えるプロジェクトと称して、船旅でのさまざまを送ろうと試みてきた。
寄港地のたびにWi-Fiを探して、ネットにつないで、たまったデータを送る。

その愚直さが、たんなる愚かさに感じて悲しくなる。

海図も持たず帆を張って海に出た、愚かなドリーマーか。

たまったデータとたまった疲れの重みが、ネガティブな海に私を引きずりこんで溺れそうだ。

船旅は夢の一つの象徴に過ぎない。
読む人たちがそれぞれにいだく「いつか叶えたい〇〇」を実現するきっかけになるプロジェクトを目指していた。

船旅1ヶ月を過ぎて、うすうす、勢いだけでは作業の限界を感じている。

ツアーを取っていない「自由行動」でみずから選んだ行動が、私を不自由にしている。

目の痛みが増してきて、作業も限界になった。

目をつむる。
Macも閉じる。

私の残り時間は、あとどれくらいだろう。

何を選べばいい?
何を手放せばいい?

それは、ITに詳しい人でもわからない。

自分で決めていくしかないんだ。

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