【洋上日記】2023年6月14日 船旅69日目 洋上生活が忙しい人、ヒマな人

気温 10℃ 海水温 10℃
横浜港から19041マイル 

日の出 5:32
日の入 23:20

ジャマイカ オーチョリオスに向かって航海中

8時間以上眠った。
バンド練習は譜面がないまま、アイスランドのWi-Fiを使ってダウンロードしたYouTube画面収録動画を頼りにやることに。
ドラマーの手さばきを繰り返し観ながら「みようみまね」で練習するのだ。

他のメンバーもそれぞれのパートを譜面あり、なし、それぞれの環境で自主練している。

バンドフェスは、6月30日に決まった。
楽曲が決まってからバンドフェスまで16日。短い。
練習時間は、シアタールームの楽屋裏にある一台のドラムセットが使える2時間のうち、他の参加者と時間を分け合って使うので、楽器が使えるのは10分~20分程度。
他のドラムセットが設置されている場所は近くの部屋の住人からクレームが出て、練習には使えないらしい。

洋上運動会が6月19日に開催されるので、実行委員は忙しそうだ。
誕生月で4つのチームに分けられており、私は青色。あお。
ほかに赤、黄、緑。

乗客どうしが交流できるイベントがこうやって色々と開催されるので、ジャマイカまでの長い洋上生活でも関わろうと思ったぶんだけいくらでも忙しくなる。

何もしたくない人は、何もしなくていい。
参加スタイルも、ただ当日に参加するだけの人もいれば、イベントの作り手としてのもう少し積極的な参加もできる。

洋上生活が「充実」している人、「忙しい」人、「ヒマ」な人、「時間をつぶす」人、わかれていく。
船での生活は、陸地での生活と大きく変わらないと思う。

旅の始まりに身にまとったキラキラしたうわべの価値観は、日常とともにいつもの価値観にとってかわる。

陸でも、いろんな企画や行事、コミュニティに、積極的に関わる人は、船の上でも同じように動く。
反対に、知らない人とあまり関わらず、内輪で過ごしたい人は交流の輪を広げる行動はとらない。

何かするときに「〇〇さんに誘われたから」と受け身で参加して、感想や批判など好きに話す。

「ヒマでつまらない。なんか、なーい?」と言う人。

「ヒマつぶしに」と船内のウワサ話で盛り上がる人。

ヒマを「つぶす」ではなく、ヒマを愛して水平線を眺めている人。
そういう人はイルカやクジラに挨拶されてる。

自分の何かを変えたくて、これまでと違うパターンに挑戦している人。
企画の実行委員になって動く人。
やりたいことを、仮でもいいので見つけて試しにやっている人。

私自身はどうだろう?
「充実」「忙しい」「ヒマ」「時間をつぶす」人、どうだろう。
時間がないと感じているのは、ときどき、原稿が気になるから。

たまに忘れて、楽しく過ごす。
たまに思い出して、ううううーとなる。
たまに「大丈夫」と自信を持つ。

すべて私がしたくてやっていること。

こういう言葉があったなぁ。

「悩むのは、ヒマだから」

行きたい講座を見送り、たまに参加する。
パソコン持ち歩いて広げてううーとうなって時間が経過し、友人に誘われて食事に行く。
ドラム練習可能時間に楽屋裏に行き練習し(先生はいない)、完璧主義ならぬ完璧”願望”主義な自分を感じながら「やれるだけやろう」と言い聞かせる。

「充実」と「忙しい」の間で、「ヒマ」だから悩んでいる。

そんななか、語学学校の先生マリアの誕生会に誘われて、14階レストランへ行った。

マリアの誕生会は20人以上の人が変わるがわるやってきて、マリアは一人一人にハグしながら満面の笑顔でお礼を言っている。
6月13日で34歳になった。

ずっと学校の先生をしていたマリアは、いつか中国で仕事するのが夢だそうだ。
船でも、語学講師の仕事だけでなくマリアはいつも忙しそうにしている。
昨日二人で話したとき、故郷スペインで親戚や親や仲間から「結婚は?」「これからどうするの?」と聞かれ迷いも多いと言っていた。
船を降りた後の人生を考え、心がザワついているという。

「次の瞑想ワークショップはいつやるの? 待ってるよ」

書く瞑想ワークショップに参加して以来、パソコンで日記を書くのをやめて、手書きで書くのにハマっていると教えてくれた。
自分の字が汚くてほんとに嫌いだったけど、なんだか最近書いてて楽しいの、と笑っていた。

誕生日を祝う人たちと談笑するマリアたちから少し離れたテーブルで、一筆箋の表紙にメッセージを書いた。

Happy Birthday Maria!
I am so happy to meet you on the voyage 114th.
I believe that your handwriting leads you where you go, what you talk, who you want to be with.
More talking to yourself by handwriting, more making you happy.

===

マリア、誕生日おめでとう。
114回クルーズであなたに会えてよかった。
あなたが行く場所や、何を話すか、誰といたいかは、書くことが教えてくれるでしょう。
手書きで自分と対話を重ねるほど、幸せが重なっていくと思います。

ちょうどぺぺがいたので手招きして、この文章どう?とメッセージのチェックを頼む。

「この’who’は、恋人のこと?」
「とは限らないよ。恋人も友達も仲間も、マリアが一緒に過ごしたいと思える人のこと。
わかりづらいかな?」

ぺぺは再度読み返して、頷く。

「なら、このままでいいと思うよ」
「ありがとう。それと、この最後の’happy’を、別の表現にしたいんだけど、何がいいかな。
同じ言葉happyを繰り返すのもなぁ。落ち着き、とか、平和な気持ち、とか・・・
‘peace’とか’calm’とか?」

ぺぺが表現を探しに遠くを見る目になって、すぐに戻ってきた。

「’peaceful’は?」
「それだ」

最後の部分を書き直した。

More talking to yourself by handwriting, more making you peaceful.
手書きで自分と対話を重ねるほど、安らかさが重なっていくでしょう。

「うん。とてもいいと思うよ」と、ぺぺ。

ありがとう。

日本から持参のチョコレートと一緒に、メッセージ付きの一筆箋を渡した。
マリアが「サヨありがとう~」ともう一度私にハグをした。

誕生会会場のレストランを出て、7階のシアタールーム楽屋裏でドラム練習30分して、練習時間リミットがきておしまい。

部屋に戻ってベッドでぐったり。
コミュ力アプリ終了。
エネルギー切れ。

誕生会パーティや華やかな場所が、やっぱりどこか落ちつかない。
安らかさが必要なのは私も同じ。

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