【洋上日記】2023年6月8日 船旅63日目 私たちは船長だ

気温 5℃ 海水温 3 ℃

日の出  なし
日の入  なし
時差調整 あり(マイナス1時間)

アイスランド アークレイリに向かって北極圏を南下中。

昨夜マイナス1時間、時計を巻き戻す。
今夜も、マイナス1時間、時計を巻き戻す。
時差調整が続く。

ここ数日ノルウェー沖を北上していたので緯度は上がるが、時差調整はなかった。

時差調整が2日連続でおこなわれる。
今夜の時差調整で、日本との時差が9時間になる。
こちらが昼12時のとき、日本は夜の9時だ。

船はアイスランドに向かって、南西に舵を取っている。
明日の夕方には、アイスランドの港に寄港する予定。

ロングイェールビーンの6月の気温は最高3℃、次に向かうアイスランドは南西に位置するので最高気温12℃、最低気温7℃らしい。
数字だけなら福岡の冬とそう変わらない。
ツンドラ気候なので数字だけではわからない違いは、現地で体験できるだろう。

もうすぐ北極圏を抜けて、白夜も終わる。

パシフィック・ワールド号、カスパー船長の判断で、トロムソ港でのトラブルで一日半ずれた旅程がようやく整ってきた。

船の停電という「予定外」で変更になったのは、ざっとこんな感じ。

・6月3日ホニングスヴォーグの抜港(寄港の取りやめ)
・上記の目玉だった「ヨーロッパ最北端の岬」ノール・カップを沖合から眺める
・次の寄港地ロングイェールビーン入港時間の12時間の遅れ(6月5日 朝8時→夜9時)
・遅れにともない寄港日数を2日間に延長、翌日午後まで滞在できるように
(6月5日夜8時出港が、6月6日午後4時に出港へ)
・ロングイェールビーンでは、翌6日の港の予約が入って2日間の着岸はできなかったようで、翌日は「沖どまり」。
テンダーボート(通船)で上陸することに
(6日の朝、ロングイェールビーンの小さな港に他のクルーズ船が着岸していた)

と、さまざまな調整がなされた。

目的を果たすために、何かを選び、何かを捨てる。

114回クルーズのコンセプトは、たしか「白夜がいざなう北極圏の旅」だった気がする(うろ覚え)。
なので、ヨーロッパの最北の岬ノール・カップの眺望は航路変更しつつも残したのかもしれない。
ほんとうの優先順位は、船長にしかわからない。

見知らぬ寄港地に夜の8時に着いて、上陸許可が夜9時なんて、観光スポットも店もどこも閉まってるじゃないか!と怒る乗客がいた。
パブは深夜2時まで空いてるから間に合っていいじゃない、と言う人たちもいた。
白夜だし治安もいいし、夜どおし遊べる! と船に帰らない人たちもいた。

船のキャプテン、カスパー船長は船の責任者。
他に旅行会社の責任者、NGO団体のクルーズディレクター、3つの組織が協力して、「船旅」が成り立っている。

私はいち参加者なので、どのような連携がなされているかわからない。
けれど、停電やドクターヘリの出動などのトラブルによる航路や旅程変更は、おそらくカスパー船長による決断だろう。

「予定外のことが起こる」という意味で、私たちの日常は、とてもよく似ている。

私たちは、それぞれの船を一隻もっている。

船旅に参加しなくても。
私たちは生まれた時に与えられた、ただ一つの船「からだ」を動かす船長だ。

生きていると、予定外のことは、いっくらでもある。フツーにある。
思いがけなくうれしい出来事や、想定外の悲しい出来事が、私たちの「予定」をひっくり返す。
そのたびに私たちは、それぞれの舵を取り、次の航路を調整する。

船を動かし、日々、どこかへ向かっている。
外洋に向かわせたり、スピードを出したり、ゆるめたり、すべて自分で決めることができる。

港(目的地)を決める。
航路(行きかた)を決める。
そのための情報を集めて、判断して、決めて、向かう。
予定外の出来事が起きれば、あらがわずに対処し、それがすめば元の航路に戻る。

ほかの船や、港の都合もある。
海はみんなのものだ。
GPSで現在地を確認しないまま、警笛を怠れば、べつの船と衝突するかもしれない。
行きたかった陸地に、予定外の都合で向かえないこともある。
停電が起きて、海のど真ん中で動かなくなる可能性もある。

嵐やシケに遭いたくないからと、錨(いかり)を下ろし港に留めおいておくこともできる。
港に留めていても、時間は留めおけないから、船は朽ちていつか動かなくなる。

すべてを含んで「次どこに向かうか」航路を決めるのは、私たちだ。

私たちは、船を一隻もっている。

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