【洋上日記】2023年6月5日 船旅60日目 初イルカは北極圏で

気温3℃ 海水温4℃
横浜港から16732マイル

白夜で明るい昨夜、北極圏に入った。

予定外のトロムソ停泊からの、6月5日。

真夜中まで、けいちゃん・ゆきちゃんと部屋で語り合い、自分の部屋に帰って眠ったのが昨夜2時。
宇宙の話、量子力学の話、想念が現象をつくる話、藤井風くんの話、「grace」のミュージックビデオいいよねぇ!な話。いきなり核心の話。
3人で盛り上がる。

けいちゃんと挨拶以外で、じっくり話すのは今夜が初めて。とは思えない。

けいちゃんは、私が持ってきた本『アルケミスト』を読みたいと言い、私はけいちゃんが持ってきた本『2040』と『神との対話』を読みたいと言い、明日お互いの本を貸し合う約束をして、ゆきちゃんの部屋を出た。

スーツケース2つだけで部屋も何もかも引き払って生きたいと言うけいちゃんは、75歳。
5階レストランから14階オープンデッキまで、息ひとつ上がらず階段を上がる。
野生の鹿みたいな筋肉を全身にまとっている。
32年の結婚生活を「熟年離婚」で清算し、どんどん身軽に生きたいの、と語る。

けいちゃんがサルサを踊る様子は、宝塚歌劇団のように周りの空気を変える。
今日のけいちゃんは、黒いジャケット(白地の切り替えが脇下に入っている)に黒パンツ、白Tシャツ、冬の空みたいな水色の髪に銀色のネイル。
そのまま舞台に上がりそうなスタイリッシュな格好で、ゆきちゃんの部屋のベッドにあぐらをかいてワインを飲んでいる。

「サヨちゃんの昨日の瞑想ワークショップとてもよかった」と、初参加だったけいちゃんが言った。

「ぺぺがいたでしょ、昨日。ぺぺはもう4回目の参加だって言ってたわ。
私、船内新聞あまり見ないからサヨちゃんの企画を知らなかったの。
昨日の、とてもよかったわ。次も参加する」

ありがとう。
所作も言葉も美しい彼女が私の自主企画があると知って、すぐに参加してくれたことが嬉しい。
かっこいい人にそう言われるとどぎまぎする。うれしい。

部屋に帰って顔だけ洗い、着替えて眠ったのが2時だった。

今朝6時に目が覚める。
何かの夢をみていたらしい。
スイッチが入ったようにぱちっと目が覚めたので、朝か昼か夜か、何をしているのか、一瞬わからなかった。

ここはどこだ?

からの、6月5日、月曜日、北極圏、世界最北の町ロングイェールビーンに向かっている途中。

だった。

【もともとの旅程】

6月2日 トロムソ(ノルウェー)7:00~17:00
6月3日 ホニングスヴォーグ(ノルウェー)10:00~20:00
6月5日 ロングイェールビーン(ノルウェー領)8:00~21:00

【変更した旅程】

6月2日 トロムソ(ノルウェー)7:00~【船トラブルにより停泊】
6月3日 トロムソ2日目(ノルウェー)~19:00
イマココ → 6月5日 ロングイェールビーン(ノルウェー領)18:00~【停泊】
6月6日 ロングイェールビーン(ノルウェー領)~14:30

トロムソで船が停泊したことを受け、旅程が変更になった。

変更の案内が流れたのが昨夜で、今朝に変更後の寄港地情報がポストに投函されていた。
ホニングスヴォーグへの寄港を取りやめ、ノールカップ岬を船から眺め、ロングイェールビーンへ向かう。

最北の町に2日いられることがわかり、うれしくなる。

2日の夕方、私の部屋の前の廊下から激しい水音がしたのでドアを開けると、天井から水が落ちて廊下が水浸しになり、漏電で廊下の電気が点滅していた。
漏電から火事が発生しなかったこと。
おおぜいのクルーたちによる応急処置がすぐになされていたこと。
船がトロムソ港で動かなくなったこと、停電が起きたこと、どうにでも捉えられる。

予定していたツアーがだいなしだと怒る人もいた。
不安でネガティブな想像と憶測をぶちまける人もいた。
展開を受け入れておもしろがる人もいた。
「もしも」に備えて緊急経路を確認しようと話した人もいた。(救命ボートは7階にある)

現状を確認して、それから持っているものを数える。
電気も復旧した、水も使えるようになった。温かい味噌汁もスープもある。
じゅうぶん。

航海中に停電してたらもっとパニックになっていたかもしれない。
港で停電が起きたのは幸いだ。
私はトロムソで思いがけない2日目を過ごせて楽しかった。

できることはなんとかするけど、どうしようもないことは受け入れる。

朝7時半、オープンデッキに出る。

トロムソで買ったばかりのダウンジャケットを着て、ストールを首にぐるぐる巻きにして。
気温は3℃、海水温は4℃らしい。
寒い以上に空気が爽快だ。
デッキに上がってすぐ、右舷側の海に、雪山の連なりが見えたのでびっくりした。

スヴァールバル諸島のスピッツベルゲン島に、肉眼でわかるほど近づいている。
海の向こうの雪山に見とれていると、手前の海でイルカが泳いでいるのに気づいた。
この船旅で初めて見るイルカは、北極圏で生きるイルカだった。

何頭も、何頭も、背びれを見せながら泳いでいる。
寒い中デッキにいる人はほんの数人。
知らない人たちと「イルカですね」「ほらあそこも」「あっちも」と声を上げながら眺めた。

※ 画像はノールカップ岬で見たクジラ。
イルカの写真撮らなかった。なんとなく。

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