【洋上日記】2023年5月28日 船旅52日目 「動く老人ホーム」

気温 13℃、海水温 11℃

朝、ベッドから体を起こそうとして肋骨がきしんだ。
痛い。
ベッドのシーツをつかみ、息を止め、気合いを入れ上体を起こす。
打った時よりヒビが1cm伸びた気がする。
たぶんロンドンで伸ばした。

今日は移動日。
北極圏に向かって、船はひたすら北上する。
次の寄港地は4日後で、ノルウェーのオンダールスネスだ。

しばらく安静にしよう。
講座への参加は座っているだけなので、部屋にいるのとさして変わらない。

体調が悪いわけではないので、部屋の外に出る。
ゆっくり歩く。
パソコンは重いので、部屋に置いていく。

ノートは記録用に持ち歩く。
なんでも書く。忘れる前に。

動くたびに肋骨が痛むが、病気ではないし、食欲もある。
朝はあまり食べないぶん、昼ごはんはしっかり食べる。
肉も野菜のおかずはどっさり。
炭水化物は、だるくなるので控えめに。

スイカとシャインマスカットがあって、うれしくててんこもり(写真)。

一人で海を眺めながら食べていると、以前レストランで相席になった広島のAさんが声をかけてきたので、一緒に食べた。

Aさんは、飛鳥Ⅱとダイヤモンド・プリンセス号に乗ったことがあり、今回ピースボートには初めて乗るそうだ。

「ピースボートは、他の船と比べて参加者どうしの交流が盛んでいいですね」

と、Aさん。
飛鳥Ⅱは特に、夫婦で参加する高齢者が多く家族以外でコミュニケーションを積極的にとろうとする雰囲気はあまり感じられないという。
若者はほとんどいない。
そもそも価格が高いしね。
他の船に乗ると、そういう違いもわかるのだろうな。

ちなみに、Aさんは84歳。
今クルーズ参加者の最高齢は97歳。
誰かが「動く老人ホーム」だと言っていたっけ。

17年ぶりに乗ったピースボートですら、70代以上の高齢者の多さにおどろいたのに、他の船はさらに高齢者層がぶあついらしい。

午後、元船長の狭間さんの講座「航海の雑学 北極圏編」を聴きに行く。
明日で地球を半周するらしい。
船旅も50日を経過した。

それで、半周を振り返って、これまでに寄港した港や航路を、プロジェクターに映し出された航海用の地球をぐるぐる回しながら教えてくれた。

GPSの仕組みや、船の航法について(地文航法、天文航法、電波航法、大圏航法など)、これから体験する白夜の話など、おもしろかった。
今まさに体験していることを知識で肉付けするので、理解しやすい。

たとえばここ最近の日没は、夜10時すぎだ。
日の出は、早朝3時台。
日の出はさらに早くなり、数日後には2時台になる。
いつまでも外は明るく、暗くなってもすぐ夜が明ける(寝てるけど)。

北極圏に近づくにつれ、日の入りもなくなり、日の出がなくなる。
白夜になる。

太陽に対して23.4度かたむき回る地球がつくる、昼間の伸び縮みを、日常に体感している。

夜は、映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観た。

おじいちゃんの星ジェームズ・ボンドが、イタリアの墓地で爆風に飛ばされ全身を大理石に叩きつけられる姿に、おもわず自分を重ねてしまう。
その後、ボンドが数秒で起き上がり全力で走る姿に、私は無理だと思った。
まじで痛いから。
全身打ちつけられると息できないから。

ジェームズ・ボンド25作目、これがシリーズ最終作らしい。
007シリーズを観るのは初めて。
ふだんなら観ない映画を観られるのも、船の楽しみの一つだ。

先日観た『ゴヤと優しい泥棒(原題:THE DUKE)』も面白かった。
(これも70代のおじいちゃんが主人公だった)

『007』の主人公ボンド、推定70代は、20代(!)の女性と情熱的に愛しあい、しかし振り(彼女が泣きながら「貴方と別れたくないの!」とすがり、ボンドは無情に背を向ける)、仕事は引退したのに「君が必要だ」と仲間に請われ再び前線に駆り出され、派手なアクションで敵を殺しまくったのち、壮絶な最期を遂げる。

往年の男のロマンと夢と希望にあふれた作品。
映画上映後、会場をうめつくすおじいちゃんたちが「なかなか面白かった」「いいですねぇ」と、ふくふく満足そうだった。

私は途中で帰ろうかと思いました。

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