【洋上日記】2023年5月22日 船旅46日目 財布をなくして2日、海上、できることは特にない
気温17℃、海水温21℃
横浜港からの距離 13186マイル
早朝、ジブラルタル海峡を抜けたようだ。
スペインを海沿いにぐるっと周り、北へ向かう。
7時過ぎに目が覚める。
11階にはオープンデッキがないと思っていたら、あった。
バルコニーでもない限り、上階に上がらないと外気にあたれないと思っていた。
数日前たまたま、クルー専用エリアだと思っていたドアの向こうへ乗客も行き来できると知ったのだ。
ながい廊下をずっと歩くと、つきあたりに丸い船窓のついたドアがあり、わかりづらい小さな表記があるのみ。
英語で「日の入りから日の出までの出入りはご遠慮ください」と英語で書かれている。
これ、知らない人も多そうだ。
寝起き姿のルームウェアにジャケットをはおり、廊下を2分ほど歩いて(まあまあな距離)つきあたりの小さなドアを開けた。
広くはないけれど、船が海を割って進む景色が見えるデッキに出れた。
潮風の匂いがする。
全身に風があたる。
今日の空に雲が多いとわかった。
雲は多いけれど、合い間に晴れた空も見える。
右舷側の海の上に、朝日が上っている。
気持ちいい。
外の空気を吸いながら、あらためて起きたての今の私の状態をチェックする。
だいじょうぶ。気分もいい。
昨日クレジットカードは止めたので、現時点でできることはない。
紛失後に不正利用があったかどうかはまだわからない。
カード利用履歴の反映にはタイムラグがある。
カード会社のサイトにログインして(アクセスだけで時間がかかる)確認できたカード履歴は、5日前のギリシャのカフェ利用が最新だった。
先日のスペインも、5日前のイタリアも、カード利用履歴はまだ反映されていない。
昨日、船のレセプションの電話を借りて、クレジットカード会社へ国際通話をかけた。
船からかける国際電話は1分で500円。
今回の件ではじめて知る。
電話がつながった瞬間から、受付のスタッフが押したストップウォッチ(!)で通話時間が計られる。
国際電話は、よほどのことがないかぎり利用しないつもりだったが、「紛失したクレジットカードを無効にする」のは、まあまあよほどのことだ。
カード会社の回線が混みあい5分待ち、ようやくつながったオペレーターと話した時間は2分、合計7分(500円×7分)。
カードを止める旨をカード会社に電話しただけで、3500円の国際通話代を船会社に払った。
ちなみにカード会社へのコレクトコール代は別途だ。
なので、不正利用されたかどうかを、確認するためにカード会社に電話をかける気にもならない。
オンラインの利用履歴に反映されるのを待ち、不審な支払いがあったらネット経由で連絡しよう。
というわけで財布を無くして2日経った洋上、できることは特にない。
と、朝の風に吹かれながら考えていた。
気持ちいい。
部屋に戻って、コーヒーを飲んだ。
洋梨を2つむいて部屋で食べた。
おいしい。
昨日、ちゃんと落ち込んで、凹んだ。1日でじゅうぶんだ。
パスポートを無くすよりマシ。
暴漢に襲われて船に帰れないよりマシ。
大切な人をなくすよりマシ。
たいしたことじゃない。
財布とカードを紛失して2日目。
スペインの原稿を書こう、と思える。
その前に、エジプト、ギリシャ、イタリアの記事も書かないと。
ため込んでいる。
3日後はフランス、どんどん増える。
風を受けながら、気持ちいいなと思える。
よかった。
モノは無くしたけど、私は何も失っていない。
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