【洋上日記】2023年5月21日 船旅45日目 財布はどこ

7時半に起きる。

もう一度、部屋とバッグとリュックの中をあけて探す。
引き出しも、ノートの間も、服のポケットも。

やっぱりない。

昨日からないと知っていたのに、初動が遅れた。
クレジットカード止めなきゃ。

昨夜バルセロナから帰った後に、財布をなくしたのに気づいた。

バルセロナから、タラゴナ港へ帰るバスまではあった。
バスを降りて、船までは徒歩１分。どこで落とせる？

では、バスで落としたのだろうか？
もしかしたら船内で落とした？

船内のレセプションでたずねるも、お届けはなし。

旅行用のちいさな財布に、現地の通貨とクレジットカードを一枚入れていた。
スリやひったくり対策の携帯用の財布なので、中身は最低限にしている。
メイン財布ではないけれど、お気に入りの財布だった。

カード会社のサイトにアクセス。
船のWi-Fiはどうしても遅い。表示に時間がかかる。
イライラする。
やっと表示された画面には、紛失の際は電話のみで対応、とある。

国際電話、しかも、船から・・・
高いだろうが、他に選択肢はない。

国際電話をかけて手続きをすませ、とぼとぼ部屋に戻る。

落ち込んでいる。

マニラ以降、スリとひったくり対策は念入りにやっていたのに。
帰りのバスで、最後に財布をさわった記憶がすっぽりない。
考えてもどうしようもないことにとらわれて、落ち込んでいる。

原稿もたまってるし、参加したかった講座もあった。
でも、気持ちが沈んで何も手につかない。
14階の後方デッキの丸いソファに座って、海を眺めながらぼーっとする。
うー。だめだ。

部屋に戻って、机に座り「なによりマシ？」ワークをやった。

ノートに「〇〇よりマシ」を思いつくかぎり書き出すのだ。

全財産なくすよりマシ
暴漢に殺されるよりマシ
バスに乗り遅れてタクシー移動(3.5万円)よりマシ
船に置いていかれるよりマシ
ケガするよりマシ
破産するよりマシ
誰かをケガさせるよりマシ
事故に巻き込まれるよりマシ
スマホを落とすよりマシ
エジプトの砂漠で迷子になるよりマシ
文章が書けなくなるよりマシ
パソコンが壊れるよりマシ
応援メッセージが１件もないよりマシ
階段から落ちて骨折するよりマシ
心を打ち明けられる人がいないよりマシ
パスポートをなくすよりマシ
・・・

ほかにもいろいろぎっしり30分くらい、ノートを埋めつくすまで書いた。

すこし落ち着いてきた。

それから引き続き、こんなようなことをダラダラ書きなぐった。

↓

モノをなくすとか、嫌なことが起こる、とか。
出来事に意味はない。
ただの出来事だ。
嫌だ、と思ったら、嫌な意味がつく。
嫌だと感じて、思って、それは嫌な意味をもつ。
もしかしたらパラレルワールドで、違う世界線で、もっと悲惨な展開が起こっていたかもしれない。
こちら側の世界では、「財布くらいで」すんでいる。
そういうことかもしれない。
徹夜でバルセロナを20km歩き回って、くじいたり転んだりしなかった。
足の裏がじんじん痛んで、軽い筋肉痛くらいですんで、昨日はちゃんと眠れた。
だから大丈夫だ。

あー頭が痛い。
目の裏がジリジリ痛い。紫外線かな。
頭痛は嫌だなぁ。
目が痛くて頭の奥がズンズン痛む。なんもしたくない。
でもごはんを食べよう。ごはん食べたい。

ノートを閉じて、５階のレストランへ夜ごはんを食べに行く。

クラムチャウダーがあたたかくておいしい。
おいしいと思えてよかった。

…………………………

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