【洋上日記】2023年5月5日 船旅29日目 英語で話せるようになりたい
6時に起きる。
すっと目が覚めた。うれしい。
昨夜ゆきちゃんの部屋で飲んで話した時間が楽しかったのだろう。
楽しいという気分は、ほんとうに大切なんだな。
「楽しい」は、眠りをぶったぎる目覚ましのアラームを必要としない。
自然に目を覚ましてくれる。
7時半にデッキに出て、今日の写真を撮る。今日のメモを残す。
ネットがつながっていればそのままアップするけれど、それはできない。
なので、日々の画像を撮りためておき、日々のメモを書きためておき、寄港地でいっせいにアップすることにしている。
現地のWi-Fi環境によってできないことも多いけれど、毎日できるだけ記録はするように。
たまに思う。
これやって、何になるんだろ、
取るに足らないこと書いて、何になるんだろ、
誰の役にたつんだろ。
2006年に初めて船旅に出たときも、無印良品の2006年の日記帳にびっしり書いていた。
「耳なし芳一」の体をびっしり埋め尽くす念仏のように、ノートをはじからはじまで小さな字で埋めていた。
これ書いて何になるんだろ、と思いながら。
結局は、私がやりたいからやってるんだろう。
14階でお昼。
スイカがあった。うれしくてたくさん食べる。
部屋でスリランカの原稿を書いていると、13時すぎに電話がなった。
「Hello?」ぺぺだった。
昨日、私が主催する「書く瞑想」ワークショップに参加したいと言ったぺぺに、英語で説明するパートの文章をチェックしてほしい、とお願いしていた。
書く瞑想のやり方やポイントを、日本語と英語で交互に説明するのだが、英語のパートをもっと自信もって説明したくてぺぺにお願いしたところ、もちろんいいよ、と。
昨日そんな話をしていたので「文章をチェックしようか?」と律儀に電話をくれたのだ。
ありがとう!
15時半に8階のテーブル席で待ち合わせすることにして、それまでスリランカ原稿の続きを書く。
ぺぺと待ち合わせ。
手書きの英語の説明文をチェックしてもらい、修正する。
大きな修正点はなかった。うれしい。
難しい表現はそもそもできないし、ボキャブラリーも多くない。
それに、ワークショップにかたくるしい言い回しは必要ない。
目的は、意図を伝えることだ。
ぺぺは「こう伝えるとさらにいいよ」と、より的確に伝わる表現を教えてくれた。
文章チェックが早く終わったので、ぺぺといろんな話をした。
スペインで教師をしていたが、変わりばえのない日常にじわじわ苦しくなり、教師をやめたそうだ。
生徒も大事だし、仕事も楽しかったんだけど、息がつまりそうになる、と言って、両手で首を締めるしぐさをするぺぺ。
教師を辞めて、ピースボートの洋上語学教室の先生を始め、今回が3回目の乗船だという。
ということは地球を3周しているのかな。
ぺぺが最近読んでいる本の話や、心理学に興味があること、書く瞑想について、いろいろ話をした。
ぺぺが読んでいる本の装丁が美しい。
「いつかスペイン語も学んで読んでみたい」と言うと
「これは・・・母国語のぼくにも難解な文章だよ」とぺぺが笑う。
ところで私はこんなに英語がしゃべれたっけ。
そう錯覚するくらいに、彼が聞き上手なのだろう。
私が英語でつっかえるたび、ゆっくり急かさずに待ってくれるぺぺの、おだやかな姿勢が素敵だ。
パウロ・コエーリョの『アルケミスト』の話をしてみたら、いい本だよね、とぺぺ。
「でも、あの本を読むと、ときどき怖くなる」
ぺぺが言った。
「主人公は幸福を求めて遠くまで旅をしたけど、幸福は彼の暮らすふるさとにあった。
そういうストーリーだよね。
ぼくはスペイン人で、家族や友人がいるスペインは大切な場所だけど、ずっとそこにいるときゅうくつに感じるよ。
旅したり、遠くへ行きたい気持ちが強い。
あの本には、真理が書かれているのだろうけど」
「そうだね。もしかすると、わざわざ遠くへ行ったあとに、幸福のありかが足元にあると気づける、そういう順番なのかもしれない。わからないけど」
ぺぺは「うーん」と遠くのふるさとを見るような目になった。
やってみないと、わかんないよねぇ。
私もそれで、しょうこりもなく2周目なのだ。
この船旅の100日間で「書く」に挑戦したいぺぺ。
ずっと書きたいと思い続けているそうだ。
書く瞑想ワークショップの時間を、その時間に充ててみるといいかも、と言うと、そうだね、楽しみにしてます、とぺぺが笑う。
企画をやってみてよかった。
英語を話せるようになりたいと思い続けていた。
今、すこしだけ話せるようになっている。
いつか。
もっと話せるようになりたい。学びたい。教えたい。伝えたい。
今の気持ちを育てよう。動こう。
それが「いつか」につながっていく。
夜、ゆきちゃんと14階レストランでごはん。
またスイカがある。うれしい。
昨日よりも、さらに護衛艦が近くで見えて興奮した。
乗組員が見えそうなほど近い。
部屋から双眼鏡を持ってきて、二人でかわるがわる見た。
護衛艦の向こう、水平線の上にかかる満月イブの月がとても美しかった。
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